今年の入試が落ち着いてきたところで、2021年度入試の方向性が示されて来はじめました。思ったよりも私大が変わりそうなのでここで「国語」がどう変わるかの可能性を書いておきます。
早稲田大学政治経済学部の変更と変わらない商学部
2021年度の入試改革に、「国語」の変更があるわけではありません。せいぜい、共通テストの国語に記述が入って、それが駐車場の契約だの、生徒会の規約だの、そんなものが出るかも…というあたりでした。まあ、当初は、「古文がなくなるの?」ぐらいの変更に見えましたが、試行調査が行われるにつれ、徐々に今のセンターに近づいてきた感じがあります。それに記述の問題にしたところで、所詮、200点にプラスアルファで、しかも「使わない」なんていう大学も出てますから、そんなにめくじら立てる必要がなさそう。
となると、そもそも2021年の入試改革は、英語4技能外部検定とかになってくるわけで、あんまり国語の教員は危機感を持っていないと思います。
で、早稲田の政治経済です。
ここで、注目されたのはやはり「数学」ですね。あるいは気のきく人が、外部検定に気づいて英語、というあたりでしょうか。
でも、国語の立場から考えると、すごい改革であるのは、国語の配点がさがる、ということです。
今までが70/230です。そして、これからが、独自試験70点(総合問題です)が、これを全部国語として、90/200、ですが、独自試験がどんな問題かということですね。サンプル問題が発表されました。
https://www.waseda.jp/fpse/pse/assets/uploads/2018/08/25486ad4e541ea9a04632f8c28ba14f8.pdf
思ったより、社会、特に歴史でなく、現代文寄りであることがわかりました。
でも、本当に国語でしょうか。おそらく、法学部のイメージに近い、というか、慶応の法、総合政策、経済といった系統、もっとストレートに書けば、「政治経済」の文章ですね。
残りはもちろん、英語。でもこれもかなり政策的な読み取りが必要になります。これも慶応系統の出題です。
70点の半分は英語、半分を仮に現代文とすると、これからは60点/200点になるわけですが、その60点は、47.5点が現代文で、12.5点が共通テストの古・漢になるわけですね。
要するに、慶応大学のように、「古典はいらない」という流れに一歩踏み出したわけです。まあ、いるんですけどね。早稲田の政経のレベルで、12.5点とはいえ、たいしたことはないと思って捨てたりしたら、おそろしいことになりますから。
さて、一方商学部ですが、発表がありました。
https://www.waseda.jp/fcom/soc/assets/uploads/2019/03/cce0679157d72b1b5bba31491933afff-1.pdf
商学部としては大きな変更ですが、
結局は独自試験のみで、
- 英・国・社
- 英・国・数
- 英・国・社or数・外部検定
という形ですが、従来型です。(商学部としてはセンター利用がなくなり、数学利用と社会利用で定員をわけるので大きな変化ですが)
というわけで、すでに新高2に関しては、
- 現代文、特に政治経済的な素養が重視される政治経済
- 従来通り、現・古(・漢)の商
という併願があるなら二つの対策が重要になっていくわけです。
変わる青山学院大学・上智大学と変わらない慶応大学
さて、早稲田の政治経済だけの話なら、これは少しシンプルで、だって最難関に受からないとすれば、今まで通りの対策をしていけばいいわけですから。
では、あと二つ発表されているところを見ておきましょう。
まずは慶応大学ですが、ここは「変わらない」大学です。
でも、国語としてはそもそも異質です。
法・文・経済・総合政策・環境情報は国語がなくて論文ですからね。商学部にいたっては、国語がなくて論文テストで、もはや国語の先生の領域をはるかに越えてます。もちろん、他学部の論文も国語の先生の指導だとかなりあやしくなることは間違いないんですけど…。
ということで考えると、慶応に、早稲田政経が加わったとみることができますね。
と、思っていたら、青山学院です。
https://www.aoyama.ac.jp/wp-content/uploads/2019/03/ad_2021exam_info_subjects_20190305_1700.pdf
青山学院は方式自体は踏襲しているんですが、大部分の学部・学科で、国語は共通試験のみ、という形にしているんです。
まあ、青山学院の入試問題というのは、今までも明らかに英語偏重なんですよね。配点もそうだったんですけど、英語なんです。これで、あと1年とわかったんで、書いちゃいますけど、青山学院は、社会を補正するときに偏差値にして、偏差値のまま得点に足しているようなんです。だから、入試資料(青学がすごいのは、全部発表してくれてるんです。資料に全部載ってます。)で、毎年、日本史・世界史の平均点が50点なんです。50.1とか49.9だったりしますが、これはおそらく受験生の英語・国語の出来の差なんだと理解しています。補正するときに、平均点の差でどっちが優秀かみているんだと思うんです。で、そうだとすると、150:100:100の配点が、実質、150:100:50になるんですね。偏差値っていうのは25~75で原則分布するので。
入試問題は、学部で作っているはずなんですけど、国語の教員からみると、国語は学部で差がないんですよね。どの学部も青学っぽい癖があるんです。ちなみに私は嫌いの方の癖ですね。だから、あんな変な癖が大学で共通しているとすれば、絶対国語だけは、文学部あたりでまとめて作っているはずなんです。
だから、今回の形式にしたっていうのもわかる部分がある。だって、国語なんて作るの面倒ですから。
いるのは、日本文学科と、英文学科のC方式ぐらい。あとは、ほとんど論文型に持って行きます。経済学部にいたっては「国語なし」です。ここまでくるとすがすがしいですね。
経済系、商学系にとっては、古典を中心とした文学系の国語はいらない、ということなんでしょう。
これ、たぶんこれから鮮明になってくる傾向である気がします。本音をいえば国語はいらない。専門的知識を論文的に見ればいい。でも、基礎的な素養として全くみないのは怖い。だったら、共通テストを使わせてもらおう…。
まだ、使ってもらっているからいいですが、もしなくなったら…国語の先生の仕事は大きく変わるような気がします。
上智もそう。一般入試で、共通テスト入れて、独自試験は論文型。TEAPで手応えつかんだんでしょうね。上智は大学でそもそも問題作ってますけど、やっぱりそんなに国語に思い入れはない。専門的なことを論述で聞く方がいい生徒をとれるっていうことだと思いますね。
上智もあと1年なのでもういいかと思うので書きますが、ここは社会を偏差値換算して補正するために、どうも、英語や国語も偏差値に戻しているようなんですね。だから、上智は英語のイメージがありますが、実は1:1:1なんです。もちろん、英語だけ満点が違うので標準偏差が大きく、上から下まで出ますが、150:100に比べれば圧縮されています。だから、上智に行きたければ、バランスよく得点をとることが必須なんです。
配点同じでも、青学と上智では意味が全く異なるんです。こわいでしょ?
東京大学と一橋大学の国語の違い
でも、これって今までも鮮明だったんですよね。
だって慶応がそういうスタンスでいたんで。文学部でさえ、古典を必要としない。
じゃあ、国立は…といえば、東大と一橋の違いですね。
一橋大の国語は、古典が抜け落ちます。
法学部系では、古典はいらないけど、漢文がいるんですね。だって、日本の法律は漢文ベースでずっと書かれてきたから。漢文書き下し調の文章が読めないと、法律の勉強に支障がでる。だから、私大でも法学部だと漢文分野まで出題されますよね。明治の法学部はついこの間まで「漢文出ない」ってなってたんですけど、現代文で漢文の知識を問うことがあって、それ一度指摘したら、今は「独立した題としては漢文を出題しない」になっています。裏を読むと、「現代文では漢文の知識問うことがありますからね」ということです。
一橋はそういう意味ではすごくはっきりしている。
現代文、それから超要約。そして、漢文調の明治以降の文章。必要な力に特化するんですね。
それに対して、東大は、現・古・漢です。一般教養というか素養というか、そういう力で合否を決めていく。最難関がこうしてくれているから、基本の大切さが問われるわけですが、どうも慶応であったり、早稲田であったり、一橋であったり、もちろん理系であれば東工大がそうなんですが、このあたりは、かなり割り切って、大学で必要だと思う力にどんと振り切って、その力を見ようというのがはっきりしてくる気がします。
今まで通りの現・古・漢と、論文的な現代文
さて、ここでわかってくるのは、2021年度以降は、
- 基本的学力、一般教養としての古典を含む共通テスト対策
- 自分が進む学部学科に関わる文章を読み解き、自分の意見を書く力
の大きく二つの力が必要になってきた、ということです。
ここで私が強調したいのは、論文を書く力、というのは、国語力ではない、ということです。
「小論文」という授業で、すべての対策ができるなんてありえない。言葉を強くすると、「書き方」を強調している対策は、意味がないとは言わないまでも、合格に導いてくれるものではありません。
これから問われてくるのは、どれだけその学部学科で出題してくる文章をきちんと読み取れるか。問題になっていることを理解できるか。現代社会で何が問題になっていて、どうしてその文章を読ませて意見を書かせようとしているか理解できるかということです。
もちろん、国語の先生ができないわけではないんですが、これを一番出来るのは、学部の専門の先生です。
2021年の入試改革はこういう方向に進んでいます。さあ、どんな準備をするか?学校や予備校がどう対応するか?先生や学校の実力が問われると思います。