国語の真似び(まねび) 受験と授業の国語の学習方法 

中学受験から大学受験までを対象として国語の学習方法を説明します。現代文、古文、漢文、そして小論文や作文、漢字まで楽しく学習しましょう!

慶応大学の入試解答公表「小論文」の採点方針は?2019年度慶応小論文分析

今年から文部科学省から国公私立大学に、原則として解答の公表するように要請がされています。慶応の小論文について、検討します。

 

慶応の小論文対策って?

そもそも慶応は、国語の私にとって、特殊な大学です。1学部たりとも、国語がない。つまり、古典、漢文はもとより、普通の現代文もない。これをやられると、将来的に国語は入試科目ではなくなるかもしれないぐらいの衝撃なんです。

で、その代わりにあるのが小論文です。これはあくまでも、通称「小論文」であって、法学部では「論述力」という名称がついていたりします。

というわけで、生徒は「小論文対策ってどうすればいいですか?」みたいな感じでくるわけですが、これは私としては非常に困ったもので、いつも長い時間をかけて、

「小論文ていう科目はないと思った方がいいよ。それぞれの大学・学部に合わせた対策がひとつずつ必要なんだ。慶応だったら、せいぜい似ているのは法学部と総合政策ぐらいで、ほかは併願増やすたびに、準備が増えていくと思ってほしい。法学部と総合政策も内容は似ていても、狙いとか形式とか必要とされる力はまったく違うからね。」

というような説明をします。

文学部だけを1とするなら、経済と法学部も併願するなら、3にしてくれってことです。

このあたりはいろんな考え方があると思いますから、その人それぞれだと思いますが、私の分析と経験は、こういうことです。同じような、小論文指導をしている方と、こういうことについて、経験を共有したり、議論をしたりして深めることはいやではないのですが、こと指導を受ける生徒から「でも、塾では…」なんていわれると、「それはあなたが話を聞いて、どちらを信じるか決めてください」といいたくなる部分です。

つまり、形なんてどうでもいい。知識だ、というのが私の指導の基本方針で、それが一番はっきり出るのが、慶応大学だと思っています。

www.kokugo-manebi.tokyo

www.kokugo-manebi.tokyo

www.kokugo-manebi.tokyo

慶應義塾大学の小論文解答公表の様子

今回、解答が公表されるということになって、もちろん、小論文の解答なんて公表するはずがないから、きっと出題意図と採点の方針ぐらいだろうなと思っていたわけですが、これでさえ、上記のような自分の考え方を確認していくのにはとてもありがたいことです。

というわけで楽しみに待っておりました。

www.manebi.tokyo

www.admissions.keio.ac.jp

結局まとめると、こんな感じになりました。

  • 公表せず…経済学部
  • 方針の掲載…文学部、法学部、総合政策学部、環境情報学部
  • 解答例の掲載…看護学部

正直、看護学部はよくやってくれたと思います。でも、確かに解答例ひとつ載せたからって、採点基準がわかるわけじゃないし、むしろ、方針を載せてくれた方がみているポイントがわかるのかなという気がします。

というわけで少しずつ分析していきます。

ちなみにですが、各学部ごとにどのような準備が必要か、というのは少しずつこのブログでアップしていくつもりです。各学部でどういう知識が必要になるか、ということですね。

なので、今日は、本当にざっくりとした、読み取れることを考えてみたいと思います。

 

文学部・法学部からわかること

文学部は、「能力」についての出題。能力主義とか、学歴主義とかいう観点でみるなら、かなり法学部よりの出題ともいえますが、論旨が「能力は社会によって事後的に作られる」であるわけで、それを正当化するための「科学的根拠」が作られているととらえれば、自己と他者とのつながりを広い意味で問う文学の出題の範疇ともいえます。

今日はどちらかというと、解答の方針を見ることですから、そのあたりはさておき、木文学部が公表したものを見ましょう。設問Ⅰの要約で7行の説明をしています。設問Ⅱは自分の意見を書くところですが、実はここでも3行が要約、論旨にあたっています。

残りが3行。ここで書かれているのは「能力とは何かを社会との関連からどのように考えるかについて」「具体的には、能力、あるいはそれと関連させて、能力主義、学歴主義、業績主義などを取り上げ」ということ。

ちょっと待ってくださいね。

能力とは何か?だって、それは「社会によって事後的に作られる」ですよね?

社会との関連?それは「社会によって事後的に作られる」ですよね?

だとすると、もう、書くラインはほぼ決まってしまいます。ここに刃向うとすると、「いやいや、社会が決めるんじゃないんですよ。人間には確固たる能力差があるんですよ」ということになりますから、かなり差別的だし、この文章読んでこんなことを書くのは難しいでしょう。

そもそもこの文章は「能力差があるかないか」ではなくて、「人を区分けする能力は、社会によって事後的に選ばれている」ですからね。

というわけで、ほぼほぼ、問題文がきちんと読めるかどうかの勝負であるということを、この公表してくれた方針は語ってくれております。

法学部もそうですね。

そもそも、最初にゴシックで強調されている部分の主張を落としたら、それこそ大変。「欠点は長所の裏返しで、文際的正統性をもつ国際人権政策の基礎作りに貢献する可能性をも有している」です。何が?

それは、日本の国際人権への対応、ですよね。

このあと、ひたすら、「欠点」が書かれますから、ともすると、日本の人権意識への批判に終始して終わった受験生がいるかもしれませんが、解答例読むかぎり、はっきりと筆者の主張がわかりやすくまとめられています。

だから、これを読めたかどうかでほぼ決まりでしょう。

筆者の主張をまずはつかめるかどうか?

体裁よく、本文をかいつまんで、きりとって、つないで、そつなくまとめたところで、一言で、筆者が何を言おうとしているかがつかめないと、何を書くかがずれますよね?こういう勝負が、やはり、法学部でも起こっているんです。

本文で書かれていることが「わかる」か?

そうしたら、あとは例を、現代社会の事象から探してくるだけで、ほぼ合格ラインに到達している、といえるような気がします。

逆にいえば、本文を「わかる」ことから逃げて、ごまかした場合、かなり厳しい採点になるのではないでしょうか。

 

総合政策と環境情報の違い

総合政策と環境情報は入口こそ違え、双子の学部です。入ってしまえば、融通がきく、そんな感じ。

入試問題も似ているといえば似ているし、違うといえば、違う。

似ているのは、志望理由が明確で、ある目標をもっていて、そこに到達するためのプロセスが描けているかどうか。それを複数の資料すべてに目を通して、組み合わせて、共通点や相違点をふまえて、自分の主張を展開していく、というところです。

違っているところのひとつは、内容。総合政策は、その名の通り、ある問題についての「政策」的な討論を通じて、問題提起したり、議論の構築をはかったりするのに対し、環境情報は、環境やメディアやデザインなど、比較的目に見えるような具体的なモノで問うことが多いこと。

違っているふたつめは、総合政策が比較的、議論をする上での相違点や共通点などを洗い出させて、論点を整理させるような相手の視点と自分の視点を合わせることに重点がおかれることが多く、環境情報は比較的、集めた情報をもとに発展させるというか、アイディアを出すというか、どちらかというと最後にジャンプが必要になることが多いところですね。

 今回の出題と解答例を見たときに気がつくのは、すごく似ていながら、それぞれやはり違うコンセプトを持っていて、別の入試をしているんだ、ということを強く感じました。

総合政策は、山ほどの資料をもとに、リスクを予測し、判断することを求めつつ、その資料や現代の事象からさらに深く読み込ませるということを求めながら、学際的な視点で、現状の把握と未来の予測を、あくまでも資料やデータに基づいてさせようとしています。

政策を考える根拠となるデータや読み取りに、力点が置かれているといってもいいでしょう。

それに対して、環境情報は、今までも何度か出て来た、製品やモノが、いかに私たちの生活を変えたか、ということを中心にしています。日常の中の、様々な課題をもとにそれをどう解決するか、という視点、アイディアを求めています。もちろん、アイディアというと突飛なジャンプのように感じますが、あくまでも、それは課題ありき、で、どういう課題をみつけ、どうしなければいけないのか、ということに問題の力点が置かれているのは間違いありません。解答例では「気づき」という言葉が強調されていますが、そういうところが重要視されるわけです。

総合政策が、膨大な資料の正確な読み取り。そういえば、相関関係と因果関係のつながりをきっちりととらえさせようという問題を2年続けたのも総合政策でした。

環境情報は、日常の当たり前なことを見直し、課題に気づく力。当たり前のものの中に原理や課題を見つけていく力。そういえば、去年の、絵とストーリーから作るというのも、やはり課題発見という「気づき」を求めていたのかもしれないですね。

 

看護学部は、解答例を公表した!!

 看護は解答例を公表しました。

解答例は、半分以上を、本文の読み取り、説明にさいています。残りの特徴で言えば、ひとつは自分の経験をあげていること。だから、ただ理解しているだけでなく、自分の体験や実践を求めているともいえるでしょう。

しかし、書かれていることは、本文を悪く言えばなぞっている程度、よくいうなら、本文の内容を、自分の言葉で説明しているということ。

本文の言っていることを、自分の体験と、自分の言葉を使って、それがどういうことなのかを説明できれば十分ということでしょう。

逆にいえば、似ていて非なる解答例が、本文の内容を、本文の言葉のまま、「私も同じです」と書くような答案や、そこから本文の内容を離れて勝手に連想ゲームをはじめて、好き勝手なことを書くような答案であるということがわかります。

というようなことがとりあえずの、ざっとした分析です。

少しずつ、学部別の問われる力、必要とする知識をまとめていきたいと思いますが、しばらくお待ちください。リクエストあれば、優先してやります。