舞姫は今日からいよいよヒロイン「エリス」が登場し、物語が盛り上がりを見せることになっていきます。
今日から、ヒロイン「エリス」が登場します。やっぱり、ヒロインがあらわれないと盛り上がりませんよね。それではさっそく、このヒロイン登場の場面から見ていきましょう。
ある日の夕暮れ、教会の前で泣く一人の少女
前回のところで、豊太郎の孤立が描かれました。
「まことの我」に目覚めて、官長に楯突いたわけで、友達も作らず、勉強ばかりしていく豊太郎は、留学生仲間の中でも孤立していくわけです。
或る日の夕暮なりしが、余は獣苑を漫歩して、ウンテル、デン、リンデンを過ぎ、我がモンビシユウ街の
僑居 に帰らんと、クロステル巷 の古寺の前に来ぬ。余は彼の燈火 の海を渡り来て、この狭く薄暗き巷 に入り、楼上の木欄 に干したる敷布、襦袢 などまだ取入れぬ人家、頬髭長き猶太 教徒の翁 が戸前 に佇 みたる居酒屋、一つの梯 は直ちに楼 に達し、他の梯は窖 住まひの鍛冶 が家に通じたる貸家などに向ひて、凹字 の形に引籠みて立てられたる、此三百年前の遺跡を望む毎に、心の恍惚となりて暫し佇みしこと幾度なるを知らず。
豊太郎は「灯火の海」であるところのウンテル・デン・リンデンを離れて、クロステル巷の「狭く薄暗き巷」に入り込みます。「巷=こうぢ」は「ちまた」ですが、ここでは下町というか、生活感のあるそんな人が暮らしている場所ですね。
描写されているものも、夕方だというのに干しっぱなしにされている布団や下着、居酒屋の前にはユダヤ教の髭の長いおじいさんが座って、たぶん飲んでいるんでしょう。梯子とありますが、階段でいいと思いますが、上にも下にも階段があって、かなりごみごみとした印象です。
「大道髪のごとき」というウンテル・デン・リンデンの描写とはだいぶ異なるのがわかりますね。
そして、問題はもうひとつ、たぶんここに豊太郎はわざわざ寄っているということです。
きっと教科書とかに、地図が載っていて、たぶんあんまり見てないと思うんですけど、たいていの場合、ウンテル・デン・リンデンが中央の左から右にまっすぐと伸びていると思うんです。地図の上には、川がうねうねと、やっぱり左右に流れているはずで。
豊太郎は、モンビシュウ街の自宅に帰ると言っています。それなら、中央やや左の上側。つまり、橋を渡ればいいはずなんです。でも、クロステル巷は地図の右側。だから、ここには「わざわざ」寄っている。
豊太郎の言葉をそのまま借りれば、
「此三百年前の遺跡を望む毎に、心の恍惚となりて暫し佇みしこと幾度なるを知らず。」
ということで、つまり、そのまま帰りたくない。ちょっとぼーっとしてから帰りたい、ということでしょうね。そりゃそうです。豊太郎くんはだいぶ追いつめられてきているはずですから。
その「心の恍惚」ぼーっとしている時に、一人の少女を目にします。ヒロインの登場です。
今この処を過ぎんとするとき、
鎖 したる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女 あるを見たり。年は十六七なるべし。被 りし巾 を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に驚かされてかへりみたる面 、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて物問ひたげに愁 を含める目 の、半ば露を宿せる長き睫毛 に掩 はれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか。
さあ、やってきました。ヒロインです。
- 16歳、17歳
- 金髪で、青い目をしている。
- 着ている服は、汚れているようには見えない。
- そして美しい。書き表せないくらい。
- そして泣いている
まあ、主なところでこんな感じ。
問題は、3番目ですね。何を表していますか?
「着ている服が垢がついたり、汚れたりしているようには見えない」ってどういう表現?
きれいな服ではないことは確か。
でも、「汚くない」って書くのは…。
これ、わざわざこう書くっていうことは、「汚れているのが当たり前」っていう状態ですね。つまり、「ぼろぼろの服」。でも、それを結構きれいに着こなしている。貧しいことは間違いないけれど、意外とおしゃれに工夫して、なんとかがんばっている。そんな感じを読んでおきたいところです。
彼女はなぜここで泣いているのか?彼女に何があったのか?
さて、ここから、少しがんばってみなさんも考えてください。授業ですよ。
彼女にいったい何があったのでしょうか?
それでは、まずは本文です。長くなりますけど、がんばってね。
彼は
料 らぬ深き歎きに遭 ひて、前後を顧みる遑 なく、こゝに立ちて泣くにや。わが臆病なる心は憐憫 の情に打ち勝たれて、余は覚えず側 に倚り、「何故に泣き玉ふか。ところに繋累 なき外人 は、却 りて力を借し易きこともあらん。」といひ掛けたるが、我ながらわが大胆なるに呆 れたり。
彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが、我が真率なる心や色に形 はれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く酷 くはあらじ。又 た我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしき頬 を流れ落つ。
「我を救ひ玉へ、君。わが恥なき人とならんを。母はわが彼の言葉に従はねばとて、我を打ちき。父は死にたり。明日 は葬らでははぬに、家に一銭の 貯 だになし。」
跡は欷歔 の声のみ。我眼 はこのうつむきたる少女の顫 ふ項 にのみ注がれたり。
「君が家 に送り行かんに、先 づ心を鎮 め玉へ。声をな人に聞かせ玉ひそ。こゝは往来なるに。」彼は物語するうちに、覚えず我肩に倚りしが、この時ふと頭 を擡 げ、又始てわれを見たるが如く、恥ぢて我側を飛びのきつ。
人の見るが厭はしさに、早足に行く少女の跡に附きて、寺の筋向ひなる大戸を入れば、欠け損じたる石の梯あり。これを上ぼりて、四階目に腰を折りて潜るべき程の戸あり。少女はびたる針金の先きを 捩 ぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には咳枯 れたる老媼 の声して、「誰 ぞ」と問ふ。エリス帰りぬと答ふる間もなく、戸をあらゝかに引開 けしは、半ば白 みたる髪、悪 しき相にはあらねど、貧苦の痕を額 に印せし面の老媼にて、古き獣綿の衣を着、汚れたる上靴を穿 きたり。エリスの余に会釈して入るを、かれは待ち兼ねし如く、戸を劇 しくたて切りつ。
余は暫し茫然として立ちたりしが、ふと油燈 の光に透して戸を見れば、エルンスト、ワイゲルトと漆 もて書き、下に仕立物師と注したり。これすぎぬといふ少女が父の名なるべし。内には言ひ争ふごとき声聞えしが、又静になりて戸は再び明きぬ。さきの老媼は慇懃 におのが無礼の振舞せしを詫 びて、余を迎へ入れつ。戸の内は厨 にて、右手 の低きに、真白 に洗ひたる麻布を懸けたり。左手 には粗末に積上げたる煉瓦の竈 あり。正面の一室の戸は半ば開きたるが、内には白布 を掩へる臥床 あり。伏したるはなき人なるべし。竈の側なる戸を開きて余を導きつ。この処は所謂 「マンサルド」の街に面したる一間 なれば、天井もなし。隅の屋根裏よりに向ひて斜に下れる梁 を、紙にて張りたる下の、立たば頭 の支 ふべき処に臥床あり。中央なる机には美しき氈 を掛けて、上には書物一二巻と写真帖とを列 べ、陶瓶 にはこゝに似合はしからぬ価 高き花束を生けたり。そが傍 に少女は羞 を帯びて立てり。
彼は優 れて美なり。乳 の如き色の顔は燈火に映じて微紅 を潮 したり。手足の繊 くなるは、貧家の 女 に似ず。老媼の室 を出でし跡にて、少女は少し訛 りたる言葉にて云ふ。「許し玉へ。君をこゝまで導きし心なさを。君は善き人なるべし。我をばよも憎み玉はじ。明日に迫るは父の葬 、たのみに思ひしシヤウムベルヒ、君は彼を知らでやおはさん。彼は「ヰクトリア」座の座頭 なり。彼が抱へとなりしより、早や二年 なれば、事なく我等を助けんと思ひしに、人の憂に附けこみて、身勝手なるいひ掛けせんとは。我を救ひ玉へ、君。金をば薄き給金を析 きて還し参らせん。縦令 我身は食 はずとも。それもならずば母の言葉に。」彼は涙ぐみて身をふるはせたり。その見上げたる目 には、人に否 とはいはせぬ媚態あり。この目の働きは知りてするにや、又自らは知らぬにや。
さあ、大丈夫ですか?では、まずは豊太郎の文章にしたがって、順番にまとめていきましょう。
- 「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く
酷 くはあらじ。又 た我母の如く。」 - 「我を救ひ玉へ、君。わが恥なき人とならんを。母はわが彼の言葉に従はねばとて、我を打ちき。父は死にたり。
明日 は葬らでははぬに、家に一銭の 貯 だになし。」 - 中には
咳枯 れたる老媼 の声して、「誰 ぞ」と問ふ。エリス帰りぬと答ふる間もなく、戸をあらゝかに引開 けしは、半ば白 みたる髪、悪 しき相にはあらねど、貧苦の痕を額 に印せし面の老媼にて、古き獣綿の衣を着、汚れたる上靴を穿 きたり。エリスの余に会釈して入るを、かれは待ち兼ねし如く、戸を劇 しくたて切りつ。
……内には言ひ争ふごとき声聞えしが、又静になりて戸は再び明きぬ。さきの老媼は慇懃 におのが無礼の振舞せしを詫 びて、余を迎へ入れつ。 - 「許し玉へ。君をこゝまで導きし心なさを。君は善き人なるべし。我をばよも憎み玉はじ。明日に迫るは父の
葬 、たのみに思ひしシヤウムベルヒ、君は彼を知らでやおはさん。彼は「ヰクトリア」座の座頭 なり。彼が抱へとなりしより、早や二年 なれば、事なく我等を助けんと思ひしに、人の憂に附けこみて、身勝手なるいひ掛けせんとは。我を救ひ玉へ、君。金をば薄き給金を析 きて還し参らせん。縦令 我身は食 はずとも。それもならずば母の言葉に。」
さて、大きくわけて、事情がわかるためには、この3つですね。一応現代語を使ってちょっとわかりやすくします。
- 君はいい人のよう。彼のようにひどくはない。そして、私の母のようにひどくない(彼って誰?そして、その彼と母は「ひどい」ということですね)
- 私を助けてください。私が「恥のない人」になってしまうのを。母は私が彼の言葉に従わないからといって私をぶちました。お父さんは死にました。明日には葬らないといけないのに、家には一銭の貯金さえありません。
- ここで、家に到着。エリスが帰ると、ドアを激しくしめる老婆。で、中では言い争い。しばらくすると、丁寧にさっきの無礼なふるまいをわびて老婆が豊太郎を招きいれる。
- あなたを、ここまで導きいれてしまった心のなさをおゆるしください。でもあなたはいい人だから。明日には父を葬らなければいけません。頼りにしていたシャウムベルヒ、あなたは知らないでしょうが、ヴィクトリア座の座長で、彼のところでもう2年も経つから、わけもなく私たちを助けてくれると思ったんですが、人の弱みにつけこんで、身勝手な「言い掛け」をしてくるとは…。私をたすけてください。お金はきっと返します。もしそれができなければ、母の言葉の通りに…
こんな感じです。だいぶわかりやすくなりましたか?
問題はここからです。エリスに何があったのか、どうして、教会で泣いていたのか、わかりましたか?
ちょっと考えてください。
では正解。
エリスが泣いていた理由~正解
時系列で考えていきましょう。
まず、最初にお父さんが亡くなります。大きなショックですが、そこでもうひとつの問題が起こります。葬式代が捻出できないんですね。
で、エリスは、彼女が務めている劇場(イメージとしてはちょっといかがわしい場末のショー劇場ですね)の支配人シャウムベルヒに前借りを頼みます。そのぐらいなんとかしてくれる、と思ったわけです。
ところが、ここでシャウムベルヒは「身勝手なる言い掛け」をしてくるわけです。おそらく、体を要求してきたんでしょう。
もうひとつここで問題になるのは、エリスのお母さんですね。エリスのお母さんは、それしかないからでしょうか、「彼の言葉に従え」といったようです。従わないから、お母さんはエリスをぶった。
というわけで、エリスは、家を飛び出して泣いて途方に暮れていた…というストーリーになるわけです。
そこに救いの手をさしのべたのが、太田豊太郎、ということになるわけです。エリスが「恥のない人」つまり、娼婦、売春婦のようなところに身を落とすのを助けたわけですね。
そう考えると不自然ないくつかの話
そう考えていくと、ここには不自然な点がいくつもあります。テレビドラマのように、主演俳優、主演女優が、決まっていれば、そりゃそうなるのかもしれませんが、実際どだったのか、というのは考えなければいけません。
エリスの母はなぜ態度を豹変させたのか?
まず、決定的なところはここですね。エリスの母は、シャウムベルヒに体を売って、お金を得るように言って、なぐったはず。だから、帰ってきても機嫌が悪い。問題は何も解決していないわけですから。
だから、帰ってきても言い争う二人の声が聞こえます。この言い争いの中身は、どう考えてみてもシャウムベルヒのことです。
ところが静かになると、慇懃に自分の振る舞いをわびるんです。
おかしくないですか?
この態度の豹変は、何によって起こるのか?それは、エリスが、この人が助けてくれる、もっとストレートに書くなら、この人からお金が出て来ると告げたからしかないですね。
そうだろうって?いやいや、この段階では、豊太郎は何があったかもわかっていないし、力を貸すとは言っているけど、お金を貸すとはいっていない。
豊太郎がやさしそうだから、エリスは信じているって?よくいえばそうかもしれないけど、ずいぶん、エリス、自信があることになりません?よ~く考えてみれば、相談する前から自信があるって、仮に見る目が確かだとしても、かなり、お金がとれる人って見ているような気がして、あまりいいものではないですね。
エリスは豊太郎をどこに連れてきたのか?
エリスが連れてきたのはエリスの部屋です。屋根裏部屋だってわかりましたか?天井がない、というのはそういうこと。屋根が斜めにさがっていて、その天井裏の部屋だから、「立たば頭のつかふべきところ」なんですね。そこがベッド。灯があります。そもそも夕暮れから夜。その中にエリスの姿が灯に照らされます。「価高き花束」もあります。きっと、シャウムベルヒを迎え入れる準備だったんではないでしょうか。お金がないのに、これがあるのも、きっとそういう意味でしょう。
エリスはそこに豊太郎をつれていく。
普通?本当ですか?初対面の男を、本来、シャウムベルヒを招き入れる準備をした部屋に平気で入れる。
いや、部屋はそこしかない?嘘ですよ。お父さんが眠っているところを通り抜けたじゃないですか。
よく考えてください。あなたがもし、この人からお金をもらおうとするなら、何が一番効果的ですか?お父さんの前に座らせて、思い出話でもして、同情誘うのがよくないですか?それこそ、お母さんも一緒に。
でも、エリスは、そこを通り過ぎ、ベッドのある、価高き花束の飾られた部屋、暗い中に、灯だけがあるその部屋に豊太郎を招きいれるのです。
「君は善き人なりと見ゆ」って本当か?
最後です。二人の出会いも不自然じゃないですか?
エリスの第一声です。
わが臆病なる心は
憐憫 の情に打ち勝たれて、余は覚えず側 に倚り、「何故に泣き玉ふか。ところに繋累 なき外人 は、却 りて力を借し易きこともあらん。」といひ掛けたるが、我ながらわが大胆なるに呆 れたり。
彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが、我が真率なる心や色に形 はれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く酷 くはあらじ。又 た我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしき頬 を流れ落つ。
「君は善き人なりと見ゆ。」です。
おかしいです。どうして、いい人だって言えるのか?いや、いい人に見えたんだから、しょうがないって?
違います。イケメンならその通り。テレビドラマの主人公同士なら、これだけで恋が始まる。最初からわかります。
違います。ここはベルリン。しかも明治時代。エリスは金髪で青い目をした外国人。豊太郎は、日本人。アジア人。
どうして、恋が始まるんですか?差別的になるので、あまりつっこんで書けませんが、決して、映画の主人公ではないんです。むしろ、差別されている側なんです。豊太郎は。だから、その人を見て「善き人なり」と第一印象で言えるのは明らかにおかしいと思います。話をした後ならともかく。
考えすぎ?
いえ、豊太郎が書いています。「彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが」と。豊太郎自身が、黄色人種、アジア人、日本人としての劣等感のようなものを意識している。でも、「真率なる心」があるから、と言いますが、私には、エリスの側の事情があるような気がしてなりません。
エリスの事情をエリスとして考える。
エリスの気持ちになってみましょう。
エリスは、お金を得なければいけません。期限は明日です。明日までにお金が必要です。手はシャウムベルヒに体を売るしか思いつきません。母もそれを要求しています。他に手はないのか…。目の前に現れたのは、外国人の男。
思いつけませんか?どうせ体を売るなら、シャウムベルヒでない方がいい。どうせ、お金のために体を売るなら…。
もちろん、必ずしも体を売るつもりでない、と頑張ってみてもいいですが、つじつまがどうしても合わないのは、エリスの母の態度の豹変。エリスは母に、「この人がお金をくれる」と告げていなければ、これはありえない。仮に、「体を売る」ということがここに結びつかないとしても、詳しい事情を語る前に(詳しい事情は部屋の中ですね)、エリスはお金をとれる自信があることになります。
最後にお金をもらうとき、「驚き感ぜしさま」と書かれていますが、ここもおかしい。豊太郎がお金を出すとは思っていないなら、お母さんを説得できない。ここで、さっきとのところと矛盾しますね。エリスの驚きは、私の体を要求しないことの驚きではないのか、と思います。
このあたりは文学研究がとうにされていて、クロステル巷は、ユダヤ人街であり、また、エルンスト・ワイゲルトという名前もユダヤ人名であるとされています。ユダヤ教の頬髭長き翁がいましたよね?
エリスが、体を売る相手として選ぶなら、シャウムベルヒのようなドイツ人ではなく、同じ差別される側を選んだ、という解釈もあるんですね。
まあ、そんなことはさておき、こうしてみると、エリスの態度の描写も腑に落ちてきます。
- 彼は物語するうちに、覚えず我肩に倚りしが、この時ふと
頭 を擡 げ、又始てわれを見たるが如く、恥ぢて我側を飛びのきつ。 - そが
傍 に少女は羞 を帯びて立てり。 - その見上げたる
目 には、人に否 とはいはせぬ媚態あり。この目の働きは知りてするにや、又自らは知らぬにや。
こんな感じです。
最初が、豊太郎を家に連れていくところ。
次が、ベッドのわきに立ったとき。
そして最後が、事情を語ったあと。
豊太郎自身も、もしかしたら、わざとやってるんじゃないかって書いてますよね。女子は豊太郎のこと嫌いなケースが多いですが、あえて女子に聞きたい。
これ、どう思います?「あざとい」やつじゃないですか?男子受け狙う感じじゃないですか?わざとですか?そうでないですか?
わざとじゃないの、自然とそうなるの~、って認めます?
ねえ。みんな豊太郎が嫌いになっていくんですけど、エリスも結構じゃないですか?
というわけで、こうして豊太郎はエリスと出会うのでした。