古文単語のシリーズは11回。前回の場所に続いて、今日は「時間」に関わる語をまとめます。
前回が場所に関わる語でしたが、今日は「時間」に関わる語です。単語そのもの、訳出の問題などで、頻出の分野ですので、整理しておきましょう。
- 早い・すぐに・突然
- 次第に「やうやう」
- 「ほど」は「程度」で通じない時は、「時間」のイメージ
- 時間に関わる名詞「ひねもす」「よもすがら」「あかつき」「あした」
- 「~ごろ」は複数形。年頃、月頃、日頃。意味は「最近」と「ずっと」
- 「あからさま」「とばかり」は「少しの間」
早い・すぐに・突然
まずは試験でよく出るこのグループをおさえておきましょう。
早い「とし・いつしか・とみなり」
これは「とし」が基本です。「疾し」ですね。「仰げば尊し」の「思えば、いととし」というあそこです。
古文では、連用形の「とくとく」なんていうのが出ますね。「はやくはやく」という感じ。
「いつしか」も「すぐ」のイメージです。間の「し」は強意とみるのがいいでしょうから、「いつ(し)か」という感じです。「いつか君とデートしたい」っていうのを、ものすごく強調すると、実は「今すぐ君とデートしたい」ですよね。
現代語のイメージと反対の意味になるので、非常に狙われやすいところ。
「とみなり」は「急に」という感じですから、「突然」に近いかな。急ぎなんですけど、突然そうなったものも入ってきますね。
すぐにそのまま「やがて・すなはち」
これはまずは「すなはち」。漢文での方が出るかもしれません。漢字では「即ち」ですね。漢字が「則」なら「レバ則」で「~れば、そこで」。「乃ち」なら、「そこで」という感じです。
「やがて」も現代語と意味が反対になるので出やすいですね。
「すぐにそのまま」です。
突然「にはかに・ゆくりなし」
苦手な人が意外と多いのがこれです。
「にはかに」なんていうのは、「にわか雨」とか「にわかファン」という言葉があるので、イメージできそうなものなんですが、「さっとあがる雨」とか「浅い知識のファン」という意味の方が上に来ていることによって意味が混乱しているようですね。
これは、「突然」という感じですから、極端なことをいえば、ゲリラ豪雨がにわか雨なわけです。不意を突かれるイメージ。
「ゆくりなし」も同じです。不意を突かれる、予期していないことが起こる、というイメージです。
間違いやすい単語
さて、ここでは、意味が違っているパターンです。
まずは「早く」。これは時間は時間なんですが、
時間のイメージと「早い」のイメージでいうなら、「前から・すでに」という感じなんです。進みが早いこと、つまり、もう終わっているということで、それが進むと「以前・昔」という意味になります。
さらに、「早い」というのが、「強い・激しい」というイメージにずれて、「強烈である」ということになります。「はやく~けり」なんていう風になると、「驚いたことには・実は・あれまあ・なんと~だ」と訳した方がいいことになります。
続いて、テストに出るのは、「やをら」です。現代語でこれを使うと、なんだか「ゆっくり」なんていう風に訳す人が出て来るのですが、「そっと」ですね。間違ってないんです。「人目につかないように、しずかに、そっと動作する」様ですから、当然「ゆっくり」ではあるので。だからこそ、現代語だとそう訳したくなるんですけど、原義は、「人目につかない」方にありますから、ゆっくりだとだめなケースが出てきます。
次第に「やうやう」
「やうやう」は「次第に」です。漢字で書くと、「漸う」です。これ、「漸く」「ようやく」ですね。
春はあけぼの、で出てますから大丈夫でしょう。
漸近線なんていいますが「ぜんきんせん」ですね。暫く、は「しばらく」で、暫時、は「ざんじ」です。現代文の漢字では狙われるところですね。
「ほど」は「程度」で通じない時は、「時間」のイメージ
「ほど」は「程」ですから、身分とか程度とかの「ほど」でいいんです。ただ、一定数「時間」をあらわしています。
「~時」「~うちに」「~瞬間」など。あるいは直接「時間」と訳した方がいいケースもあります。
これは、ほぼすべての長文にこの用例が入っているぐらいメジャーです。その割に受験生があまり意識していないために混乱している部分です。
普通に読解するときに、意外とここでつまずくことが多いので、絶対に覚えておきましょう。「ほど」は「時間」です。
時間を表す語としては「節」とか「折」とかもそうですね。「節々」とか「折々」とかになることもあります。
時間に関わる名詞「ひねもす」「よもすがら」「あかつき」「あした」
名詞シリーズです。
「明くる年」は次の年。
「ひねもす」は「終日」と漢字で書きますね。春の海ひねもすのたりのたりかな、というのは蕪村の句。
「よもすがら」は漢字で書けば、「終夜」です。夜版ですね。現代でもまだ聞くんじゃないでしょうか。
朝は「あかつき」「暁」と「あした」「朝」ですね。
あした、はまべをさまよへば…というのは「浜辺の歌」。
朝、浜辺をさまよったので(さまようと)、ですね。已然形+「ば」ですから、「ので」とか「と」とかです。「~ならば」と訳してはいけませんね。
朝は別れの時間。夜にあって、明ける前に家に帰るからです。
鳥が鳴くのも別れの時間で、悲しいもの。
会えるのは、「夕さり」、夕方ですね。この時間を早くきてほしいと待つのです。
「宵」は夜ですね。
それが少し進んで夜が更けていくと、「よは」、漢字で書くと「夜半」。菅原孝標女が書いたかもといわれる「夜の寝覚」は別名「よはの寝覚め」ですね。
で、あかつき、あけぼの、あさぼらけ、です。
「つとめて」は翌朝。もちろん「冬はつとめて」とくれば、「早朝」です。おそらく、「したあとの朝」というイメージなんでしょうね。何かあった後の朝が翌朝ですからね。そう考えると、枕草子の「冬はつとめて」も何か別の意味をイメージしちゃいますが。
「~ごろ」は複数形。年頃、月頃、日頃。意味は「最近」と「ずっと」
「年頃」も間違いやすい単語でよく狙われます。
現代語では、お年頃、ですが、古文では、「ここ数年」です。
「~ごろ」漢字では「比」が多いんですが、複数形なんですね。だから「数年」です。厄介なのはこれを意訳すると、「長年・ずっと」という意味と「最近」という意味、これ、結構解釈が逆なんですが、そうなってしまうんです。
だって、
高校入学して「ここ数年」なら「ずっと」
30年高校で授業して「ここ数年」なら「最近」
ですよね?
これ、「日ごろ」「月ごろ」も同じです。ここ数日が「ずっと」になることもあるし、「最近」になることもあるでしょう?
少なくとも、「月が見頃」になったり、「お年頃」になったりはしないようにしてくださいね。
「あからさま」「とばかり」は「少しの間」
つづいて、これも、イメージが飛躍します。
「あからさま」は「にはかに」の意味を持つ単語なんですが、中古、つまり平安時代では、ほとんど「かりそめ」つまり、「一時的」という意味です。ある意味ではにわか雨の、さっとあがるという、あのイメージが中心です。
「あからさまにも~ず」になると「仮にも~ない」という感じですから、「全く~ない」と訳してもいいと思いますが、「仮・一時的」という時間イメージでおさえると混乱がすくないと思います。
「と」というのは、副詞で「ちょっと」とか「あれこれ」みたいな意味になります。「たまれかうまれ」「とかく」「とにかくに」「とやかく」など、「と」と「かく」が並びますが、指示語のイメージですね。兎に角というのは漱石さんが作った当て字ですから、正しくないです。
で、この「と」には「ちょっと」「ふと」、意訳すると「少しの間」という意味があるので、「少しの間」「ばかり」ということになるわけです。
怖いのは「…とばかり」というように、格助詞の「と」ととることもできます。前に台詞に当たるようなことがあれば、ですね。
いまはただ思ひ絶えなむとばかりを…
なんてくると、「思ひ絶えてしまおう」ということばかり、とくるわけですから、「少しの間」という意味にはなりませんね。
つまり、「と」というのが、格助詞の、つまり、私たちが知っている「と」だけでなく、「かく」のような「と」があるということを知っておきましょう。