古文単語を意味分類で整理して理解するシリーズです。今日は、「程度」をあらわす古文単語をまとめます。
- 「いたし」と「いと・いとど」
- 「あまた」と「ここら・そこら」
- 言葉を重ねて強調する「ことごとし」「おどろおどろし」「こちたし」
- もとは悪いことからよいことにも使う「ゆゆし」「いみじ」は現代の「ヤバい」
- 「あながち」「わざと」「ひたぶる」は、強く、必死に。
- 「はしたなし」の「なし」は「~ぽい」
「いたし」と「いと・いとど」
程度を表すといえば、まずは「いたし」と「いと・いとど」です。「いたし」が「いたく」となって、動詞を強調するのに対し、「いと・いとど」は形容詞、形容動詞につきますね。
また、「いたし」は、接尾語のような役割を持っていて、漢語系のものについて、それが「はなはだしい」という意味になります。
「こちたし」は「言痛し」
「あまた」と「ここら・そこら」
「あまた」は漢字で書くと「数多」ですから、なんとなく現代でも通じる感じがあります。
「ここら」「そこら」は複数形を表す「~ら」がついた形です。「君ら」とか「ぼくら」とか複数ですよね。で、場所を表すものにつくんですが、
×そこらへん
〇そこら中
ですね。たとえば「そこここ」といってもいいですが、「たくさん」のイメージになりますね。名詞とかにつけば、「たくさんの」だし、用言につけば「とても・たいへん」という感じになります。
言葉を重ねて強調する「ことごとし」「おどろおどろし」「こちたし」
言葉を重ねるイメージは、「ことごとし」と「おどろおどろし」ですね。
事は事件ですから、「事事し」で事件事件して、おおげさです。「おどろおどろし」は、なんとなくおおげさな感じがわかるでしょうか。
「こちたし」は「言痛し」で、「言葉をたいへん」ということで、やはり「おおげさ」ですね。
もとは悪いことからよいことにも使う「ゆゆし」「いみじ」は現代の「ヤバい」
続いて、「ゆゆし」と「いみじ」です。
それぞれ、「忌々し」と「忌みじ」ですから、もともとは「悪い」ことを指す言葉ですね。「ひどい」のイメージです。しかし、この「ひどい」も「ひどくいいね」なんていう風にも使いますよね。まあ「ひどい」の場合は、「大変」ぐらいの意味にしかなりませんが、「ゆゆし」「いみじ」はそれ自体が「とても素晴らしい」という意味にもなります。これ、現代でいえば「ヤバい」ですね。ぼくらの世代は「ヤバい」は「悪い」にしか使いませんが、今は、「素晴らしい」の意味にも使いますよね。いつの時代も、言葉は同じように変化するのが不思議ですね。
「あながち」「わざと」「ひたぶる」は、強く、必死に。
「あながち」は「強ち」ですから、「強いて」「無理に」という形。現代語で残っているのは、否定語とセットで使う用法ですね。
「わざと」は「わざわざ」です。意識的なことを指すので、「特別に」というような使い方もありますね。
「ひたぶる」を出しましたが、「ひた」の「~ぶる」型ですね。「ひた」は「直」と書きます。まっすぐで、ひたむきで、ひたすらな感じ。だいぶ「あながち」に近いイメージです。
「はしたなし」の「なし」は「~ぽい」
「はしたなし」の「なし」は「~ぽい」の方です。「いはけなし・いとけなし」ですね。現代語で言えば「きたない」「とんでもない」の方です。
「はした」は「はした金」とか言ったりしますが、「端」で「半端なこと」。なので、中途半端です。ここから、決まりが悪いとか、不似合いだ、失礼だ、という感じになります。
感覚としては、「はづかし」とか「やさし」とかに似ています。「はづかし」は、相手が素晴らしくて「はづかし」、「やさし」は「身も痩せてしまうような感じ」で相手が「優美」、「はしたなし」はその場にふさわしくないという感じです。