「走れメロス」に続いて定番教材シリーズは、「山月記」中島敦です。
だいたい、高校2年生に配当されております。
この作品をもう一度読み直してみたい、授業を展開してみたい、というシリーズです。
本文はこちらです。青空文庫からどうぞ。
主人公、李徴が虎になってしまい、そしてたまたま出会った袁傪(サン)にその顛末を語る、という物語です。
この定番教材シリーズは、私のストレス発散的な意味合いが強いので、少しでも楽しく小説が読めるといいなあ、国語の授業が面白くなるといいなあ、とそんな感じでやっているものです。生徒のみなさんには、ちょっといつもの授業とは違った雰囲気で、若い先生方には指導案、指導例の着眼点として見てもらえるといいかなと。そして、大人になったあなたは、もういちど、読んでみようかな、なんて思ってもらえたら。
山月記の解説ではありますが、ちょっと視点が変わると嬉しいです。
それでは、授業の始まりです。
李徴がどうして虎になるのか?
この物語を学校の授業で行うとき、一番多い問いかけは、「李徴が虎になった理由」ではないかと思います。
もちろん、直接的にそういう風に、学校の先生が問いかけないことはあるにしても、結局、李徴が虎になった理由について、詳細に読解しているとすれば、李徴が虎になった理由を考えていることになりますよね。
というわけで、私からの質問です。
李徴はそもそもどうして虎になったのでしょうか?
あなたはどうして李徴が虎になったと思いますか?
李徴はいろいろ言っています。まず、それを指摘できますか?
そして、あなたはその中のどれが虎になった理由だと思いますか?
一つなのか、全部なのか、どう思いますか?
さあ、それでは考えてみてください。
その1 尊大な羞恥心と臆病な自尊心
まず、最初にあげられるのはこれでしょう。山月記の授業の一番の山場ですね。
人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。
己 の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。
このシーンです。次の時間から、ひとつずつ検証していきますので、とりあえず、細かい読解はしません。
李徴がたどりついたひとつの結論。
自分の性格が猛獣。自分の場合、それは、「尊大な羞恥心」。この性格がすべてを引き起こす。
つまり、虎になった原因。
さあ、どうですか?
理由のひとつに入れますか?
その2 妻子をかえりみない人間像
本当は、
先 ず、この事の方を先にお願いすべきだったのだ、己が人間だったなら。飢え凍えようとする妻子のことよりも、己 の乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕 すのだ。
ラストシーンですね。
李徴はこのように自戒しています。
友人にあったとき、彼は自分の詩をたくす。そんなことより、妻子のことを先に頼むべきではないのか?
妻子のことをかえりみないで、自分のことばかり…
人間性の欠如。
さあ、これは李徴が虎になった理由として考えますか?理由のひとつに入れていいですか?
その3 詩への執着心
最後です。その2と似ているといえば似ていますが、違うところからひっぱってきます。
その中、今も
尚 記誦 せるものが数十ある。これを我が為 に伝録して戴 きたいのだ。何も、これに仍 って一人前の詩人面 をしたいのではない。作の巧拙は知らず、とにかく、産を破り心を狂わせてまで自分が生涯 それに執着したところのものを、一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死に切れないのだ。
李徴は、詩の伝録を頼みます。
李徴は言います。
自分が詩人として名を成す、というそこにこだわり、自分の心が狂って虎になったのだ…と。
当然、これは、冒頭の
狂悖 の性は愈々 抑え難 くなった。一年の後、公用で旅に出、汝水 のほとりに宿った時、遂に発狂した。或 夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇 の中へ駈出 した。彼は二度と戻 って来なかった。
と対応しているわけですが、詩へのこだわりが、精神に変調をきたした、とするなら、これもひとつの理由でしょう。
虎になった理由 を考えよう。
というわけで、可能性からすると、
- その1だけ
- その2だけ
- その3だけ
- その1とその2
- その1とその3
- その2とその3
- 全部
というあたりに落ち着くかと思います。もちろん、ほかの理由があるんじゃない?なんて人がいれば、このほかの解も出てきていいわけです。
というわけで、次回以降、これらの理由をひとつずつ検証して、李徴はなぜ虎になっていくのかを考えてみたいと思います。
一応、計5回、残り4回の予定で進めます。