今日は、総合型選抜対策のひとつとして『「原因と結果」の経済学』を紹介します。
徐々に総合型選抜なども認知されて、受験のひとつとしてみんなが考えるようになりました。
しかし、一部には誤解もあって、総合型選抜=青田買い、つまり、簡単に誰でも入れるというように考えている人も多いようです。
もちろん、入学定員を集めるのに苦労している大学やなかなか入試難度が上がらない大学にとって、「とにかく入れたい」と考える大学も少なくはないですが、みんなが「行きたい!」と思うような大学で、「誰でもいいから入ってください」などということは起こりません。
総合型選抜とは、一般選抜でこぼれてしまうような、違う視点での学力を見ていることが多く、この「学力」の中には、大学に入ってどのように学びたいかという方向性=主体性と、思考力・表現力が含まれるわけです。
こう聞くと、夏休み明けごろに、受験勉強に行き詰まった受験生は、
- やる気?主体性?入りたいという気持ちなら他の人に負けません!(勉強は負けるけど…)
- 思考力?表現力?小論文何か書くぐらいだったらできます!何かしら考えているし(知識はあんまりないけど…)
なんていう風に考えて、「よし!これで行ける!」なんていう風に考えるわけです。
ああ、こわい…。
総合型選抜は「入試」ですから、思考力や主体性があるかないかを聞いているのでなく、(誰だってあるに決まってます。)その中で優劣、順位をつけて合否を決めるわけですから、当然準備が必要です。
というわけで、論理性とかエビデンスとかを考えていくために、『「原因と結果」の経済学』を紹介します。
「原因と結果」の経済学
『「原因と結果」の経済学』は「学力の経済学」の中室牧子さんと津川友介さんが書いた本です。サブタイトルは「データから真実を見抜く思考法」。
というわけで、ざっと紹介しておきます。
私たちは物事を考えるときに、そこに相関があるか、因果があるかということを考えていくわけです。しかし、本当にそこに相関関係や因果関係はあるのかということを検証していかないと大変なことになります。
この本では、
- まったくの偶然ではないのか?
- 第三の変数はないか?
- 逆の因果はないか?
ということを教えてくれます。
順番に例を書いていくと、
- 海水温の上昇とともに海賊が減少している→海水温が上昇すると、海賊が減る。
- 体力が高い子どもほど、学力が高い→体力をつけさせると学力が上がる。
- 警察署が多いところほど、犯罪が多い→警察署を作ると犯罪が増える傾向にある。
というようなもの。
それぞれ、
- まったくの偶然。何の関係もない。海水温と海賊に関係はない。
- 別の要因が体力と学力の両方に働いていて、一見因果関係があるように見える。
- 因果関係が逆。犯罪が増えているから、そこに警察署が必要になる。
というようなからくりがあります。
こうしたものを見抜かなければいけないし、エビデンスを出すためには「実験」も行わなければいけません。
多くのことは、実験できないことが多い。たとえば、人の一生に関わるようなことは実験しにくい。あなたがA大学に行った場合とB大学に行った場合を、比較して調査することはできませんよね?
でも、世の中の、特別な現象に着目したり、実際にお金を使って実験したりするわけです。
「経済学」というのは、そうしたデータを使って政策的な効果の費用対効果を検証しているから。つまり、このぐらいの予算を使ってこういう風になることを予想しているけれど、実際はどうだろうか?そうなるとして、もっと費用対効果のある政策はないのか?ということをデータとして探さなければいけないからです。
というわけで、読んでみませんか?
大学入試における相関関係と因果関係
さて、大学入試の小論文を書くにあたり、どうしてこういう本を読むことが必要なのでしょうか?
第一に、中室先生の慶応大学環境情報学部では、ある2年間、このこと自体が問題になった年があります。1年目はこうした考え方を用いて、資料を分析しなければいけなかったのですが、おそらく教えている感覚からしても、まったく的外れのものばかりで、なので2年目は、この考え方を説明している文章そのものが問題文となり、こうした考え方を説明した上で、そのものが問題となっていました。
で、環境情報だけでなく総合政策あたりでも、資料の共通性、異同を見つけて、論点を見いだしたり、妥協点を見いだしたり、提案をしたり…というようなことを要求する問題が出るわけです。
また理系などでも多いのですが、資料やデータから、なんらかの読み取りをしなければいけないわけで、その読み取りに、相関関係、因果関係を見抜いていかなければいけないわけです。
場合によっては、その説を確かめるためにどのようなデータが必要か、すなわち、どのような調査、実験が必要かを提案させたりするのは、文理問わず、よく見る形です。
その時に、どういう観点で見るべきかというのは知っていなければいけません。
そして、実際、この本の中では、そういうエビデンスに基づいて、ある種の結論も説明されています。
たとえば、高齢者の医療負担額を増やすとどうなるのか?
医療負担を増やせば、高齢者が医者に行かなくなります。コンビニ受診という言葉がありますが、「ただだから病院に行って、話し相手になってもらう」というような受診が減る。もちろん、患者は払いませんが、それは税金で支払われるわけで、それが減れば医療費が削減できます。しかし、もし、医療が必要な人が、「お金がかかるからやめよう」ということになれば、健康が悪化する人が増え、結果として国の医療費(全額負担なら増えませんが、多少なりとも国が負担するなら増えますね)は増えてしまうかもしれません。
これらは、机上で考えているうちは二つの可能性があるわけですが、この本では、データとともに答えを示してくれます。
小論文を書くには、こうしたデータを持っていることが必要で、より説得力のある文章になりますし、何より大学の先生は、こうしたデータを知っている確率が高いわけで、逆のことを書いてしまえば、「知らないなあ」と思われる可能性さえあるのです。
というわけで、そういう意味でもこの本はおすすめ。
是非読んでください。