国語の真似び(まねび) 受験と授業の国語の学習方法 

中学受験から大学受験までを対象として国語の学習方法を説明します。現代文、古文、漢文、そして小論文や作文、漢字まで楽しく学習しましょう!

慶応大学 2020年度入試 小論文の問題分析と解答公表分析

今年の入試も終わって、解答公表が始まる時期になりました。今年もまずは、慶応大学の小論文の問題や解答公表についてまとめます。

小論文で果たして何を聞いているのか、というのは諸説あります。大学や学部によっても違うかもしれません。入試形態によっても違うかもしれません。

出題する先生が、その目的を同じ言葉で説明しても、その言葉の指す意味はなるかもしれません。

まして、小論文を教える先生の教え方になってくると、これはもう様々。

何が正しいかは、あなた自身が見つけるしかない。

私は、

「大学でその学問、学科を学ぶための基礎知識と基礎学力がついているかを確認するための試験」

だと思っているので、何より重要なことは、その大学で出題した問題文を正しく理解し、提起された問題点を正しく認識し、それについてまっとうに書き切ることだと思っています。

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このあたり、そうでない指導もたくさんあると思いますが、その前提ですから、学部ごとの分析が大事なわけですね。という方針でこんなことを書いています。

というわけで、慶応大学の小論文を説明しつつ、今年の問題と解答方針を見ていきましょう。

 

慶応大学文系学部の小論文

慶応大学では、私の科目「国語」がなく、小論文が課されています。厳密に言えば、学部によっては、「論述力」などという名前になりますので、小論文でいいのかという話にはなりますが、とにかく国語がなくて小論文というのが大きな特徴です。

文系学部の中で、唯一商学部だけが、「論文テスト」という名称で、小論文とは違う対策が必要になっています。思考力というか、分析力というか、また昔には一般教養とか常識にあたるようなものも出ていましたし、相当数の選択型の問題でもありますので、ここだけは、今回の対象からはずしています。

私が今回扱うのは、いわゆる「小論文」にあたるものです。 

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出題傾向については上記にまとめており、タイミングを見ながら、学部ごとの傾向をまとめてあげているところです。現在は経済学部しか書いていませんが、法学部について執筆中で、そのあと文学部、総合政策、環境情報と取り組む予定です。

いずれに学部でももっとも重要なのは、

  • 与えられた文章、資料を読み解き、本質的に理解して、何が問題となっているか考えること。
  • 出題された形式に沿って答えること。

の二つです。

ここにおいて、「わからなかったら、とにかく賛成、反対決めて、理由を書いていこう」とか、「何か自分が知っているキーワードを見つけて、自由に書いていこう」というような戦略は無意味。

今書いたやり方で受かるような人は、もともとある程度基礎知識があって文章がわかっていたり、持っている知識がまとまっているため書くと必然的にテーマに近づく…というようなケースだけです。

要はよく本を読んで、その学部で必要な知識をある程度頭の中に入れている人なら、「たいして準備しなくても受かっちゃった」みたいなことになるんですけど、そうでないなら、準備が必要。

誤解を恐れずに書くなら、あなたの通っている高校が、慶応大学にたくさん合格者を出しているなら、たぶんあなたの普通で通用しますが、もしあまり受からない高校に通っているなら、あなたの普通では太刀打ちできません。もちろん、「おれはあいつらと違うし…」ぐらいの発想でやれているならいいんですけどね…。

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上記が昨年の解答公表に関わる分析です。

昨年度より文部科学省より解答公表が要請されていますので、多くの大学が公表しています。ですので2019年度入試以降の赤本は、大学公表の解答である可能性が高く(公表しない大学や問題もあります)、2018年度以前の解答は業者が作っている可能性が高いです。

ちなみに、中堅以下の大学で、解説がまったくなく、レイアウトがほかの大学と違う赤本は、2018年度以前でも大学が発表している解答の可能性が非常に高いと思います。

 

2020年度入試法学部~本文の要約を自分の頭で行い、ある一定の結論に向かえるかどうか。

まずは法学部です。

「アジアの近代化」についての文章を読んで、「筆者の議論を要約した上で」「あなたの考えを具体的に」書け、というものです。

問題自体のテーマを分析するよりも、公表された出題方針から分析していきましょう。

まず、要約パートについてですが、次のようにまとめられています。

著者のアジア観、西欧観、近代化の認識を読み取ることが求められる。そのうえで、アジアの近代化は国民国家の建設とアイデンティティーの再認識を促したとする著者の主張について、簡潔にまとめることが必要である。

一見、何気ないまとめですが、正直、これを普通と思えるかどうかで、あなたの要約力、いえ、本文理解力が問われます。

というのも、この説明は、

  • 本文が「アジアの近代化」について述べていること。
  • それが「国民国家の建設」と「アイデンティティーの再認識」の二つをもたらしたこと。

であるからです。

本文を読むと、これほど明確に段落分けがされていないというだけでなく、「国民国家の建設」と「アイデンティティの再認識」という言葉は使われていません。特に前者にいたっては、「国民国家」という単語さえ見つけられない。

国民国家の建設については、つまり、アジア諸国がどのように西欧近代文明、産業革命以降のテクノロジー、もしくはそうしたことを可能にする価値観を取り入れて西洋型の社会を作ってきたということですね。中盤がこのあたりの記載です。で、そのあと、そこでゆらぐアイデンティティーをどうするか、という問題に記述がうつっていきます。

だから、そりゃ、順番に大事そうなことを写せば、結果として同じような答案になるかもしれませんが、解答公表のように、まとまっているのか?

そのような中で、本当に上の軸に沿って要約できたのかどうか。

ある意味では、自分の言葉でまとめ直すことをはっきりと要求していますし、もちろん、西洋型の「国民国家の建設」と「アイデンティティーの再認識」、さらには主語である「アジアの近代化」について、それぞれの採点基準となりうるキーワードが設定されているとは思いますが、そもそも、この枠組みが理解できているかどうかで大きな差がついている可能性が高いです。

さらに、あなたの考えについては、こんな記載があります。

この講演は1983年に行われたものであるが、21世紀の現在を予見する内容が含まれており、激動する国際関係や社会変動を例にとりながら、アジアとその近代化について自らの見解を述べることが期待される。

これは、問題文のラストの方ですね。「独自性と多様性」に思いをいたすなら、「自分と違った他の人々の存在を認め、その尊厳を重んじ、共存をはかっていくこと」がいかに大切かを思い知るとあります。国際的な相互依存の度合いはますます高まっていると。

これが、この文章の方向性だとするなら、書くこと、特に具体例って決まってきますよね?

普遍的に見える西欧近代文明が、自分たちの文化やアイデンティティーを揺るがして、ある種の個人主義的な自由平等が幅を利かせていくわけですけれど、そういう中で、社会の中には、民族中心主義や差別や政治暴力、自然破壊、貧困などの問題が起こってくる。

だから、本来は各国の状況や文化のあり方にしたがって、画一的であるべきではなく、普遍的に語られるべきものではない…。だから、そこには「独自性」があるべきだし、そうなれば当然、全体としては「多様性」が必要になる、と。

まず、このあたりが何の話をしているのかを、具体的に見つけて、頭で理解していかない限り、とんでもない飛躍をする可能性があります。

慶応の法学部では、マイノリティの問題であるとか、戦争責任の問題であるとかも出題されていますが、昨今の保護主義的、ナショナリズム的政策や風潮を頭に入れた上で、アジアを舞台に考えていくとなると、「自由」に見えて、おのずと方向性は定まってくると思うんですね。

これが法学部の解答公表からわかることでした。

 

2020年度入試経済学部~今年はじめて公表。小論文の練習には一番向く学部。正解は「ある」。

経済学部は昨年「非公表」でしたので、今年がはじめての公表。

経済学部は一番最初に傾向をまとめました。

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一番練習になります。

要は、

  • 出題された文章や資料をしっかり読み取ること。
  • 指示された形で書くこと。

というふたつを徹底してやることが重要で、2番目については自分の頭で考えてないとできない指示が多い。

それでいて文章があまり長くないので、練習にはもってこいです。

でもね、受ける学部で練習しないと意味ないですからね。

さて、今年の問題は「分かち合い」でした。解答公表見ると、「分かち合い」って鍵かっこつけてるんで、これがテーマです。ふたつの文章を読んで答えます。

  1. 「分かち合い」は、人間にとってなぜ必要であると考えられるか。二つの課題文に共通する必要性を200字以内で答えなさい。
  2. 「社会サービス」とあるが、これからの社会において、本文の意味での「社会サービス」の重要性は増すべきか、減るべきか。また、なぜそのように考えるのか。筆者の考えにとらわれず、あなたの考えを400字以内で自由に述べなさい。

さて、経済学部は、いつもかなり不自由です。字数が短い割に指定が多い。

今回も、順番に見ていきましょう。

まず、1問目。ふたつの文章に共通する「分かち合い」の必要性です。

解答公表を見ると、

「分かち合い」が自身の生存の可能性を高めるものであることを読みとっているかどうかがポイント

とありますから、ああ、これが採点基準だなとわかります。

で、2番です。

指示と答えを書いていきましょう。

  • 本文の意味での「社会サービス」=オムソーリ。社会サービスのために税を払うのでなく、社会のため、他者の生のため、税を払う。
  • これからの社会において、重要性は増すべきか=増すべき。だって生存可能性を高めるんだから。
  • なぜ、そのように考えるのか=解答公表では「実際の社会サービスのあるべき姿や意義を自身の視点から議論しているかどうかを問う問題」としている。

つまり、

  1. ここでいう社会サービスっていうのは、自分が受けるサービスのために代価としてお金を払うわけじゃなくて、他者とか社会のために貢献しないといけない。
  2. 生存可能性を考えたら、重要性は増すしかない。
  3. そのうえで、今ある社会サービスがどのような問題を抱えてどうなるべきかを論じる必要がある。

という流れが決まります。

最後については、年金から、保育所から、教育から、介護制度から、医療保険から、貧困、生活保護、あるいは途上国援助などなどさまざまなことが考えられますから、いろいろな書きようがありますが、方向性はこれしかないくらい決まってしまうと思います。

もちろん、無理やり、2で、「減る」と書くことも考えられます。それは現状が十分だと考えていたり、ある種お金で解決していると考えているということもできなくはないですが、うまくやらないと結局、それは、直接参加的なサービスへの移行、たとえば保育所じゃなくて育休だよね的な、結局は「分かち合い」でしょってなってしまうので、いずれにせよ、「増す」というのが無難でしょう。

経済学部のテーマについて、私は、基本的に「経済に関わること」「学び方」「学び方の実践」という3分類で説明しているんですが、今回のテーマはかなり法学部的とはいえ、経済学の範疇。市場と公共の関係は、頻出でしたから、分かち合いというのは、公共系のテーマと考えることができると思います。

経済学部はこのように、より正解の方向性が決まることが多いので、受験する人は注意しましょう。

はじめての解答公表でしたが、やっぱり経済は「正解の方向性がはっきりしている」ということはつかめた気がします。

 

2020年度入試文学部~異文化理解と多様性がテーマ。「ふまえて」をどの程度理解できたか?

文学部は、経済学部と比べると、例年、テーマ理解をした上で、ある程度自由に書くことができる傾向にあります。同じような立場で書くのか、逆で書くのか、こっちの立場ならこう書けばいいし、こっちに立ならこう書けるよね、というような感じ。

でも、教える立場からすると、「どっちの立場でも書けるけれど方向性は決まっている」というのが文学部のポイント。

文学部は、基本的には、「言語が文化を規定する」話、「言語と過去、時間と歴史」の話、「常識とクリエイティビティ」の話、「異文化理解と多様性」の話、「メディアと身体」の話、などがよく出てくる印象。

今回は、異文化理解とはいえ、社会の有り様に入っているので、やはり、法学部的観点といえなくはありません。経済や法とも期せずしてかぶっているような感じですね。

「移民をはじめ、様々なバックグラウンドを持つ人々の国境を越えた移動が増加するなか、」「マイノリティの投稿を目指す西洋型多文化主義の政策が限界を呈している」と解答例ではまとめています。国民国家の枠組みへの統合というか、定住者というか、もともとある国家に、移民は統合されていく中で、多文化を尊重する、という形が限界なのだというわけです。で、「アジアやアフリカに見られる、多様な人や集団が、互いに距離をとりながら、緩やかに共存する例」がとりあげられ、「クカサスのリベラリズムについての議論」「マローンの分散型ネットワーク型社会についての分析」を参照しながら「新たな社会のあり方」を考えている、ということなんですね。

設問Ⅱの解説には「課題文では、人々が自由に移動し、集団を形成し、またそこから脱退することが肯定的に描き出されている」とまとめています。だから、設問Ⅰで、この感じが新しい社会の有り様として、おさえられたかどうかがポイントになっていると思います。

文学部は、その上で、「実際には、集団のあり方、とくに集団とそれに属する成員との関係は、様々な形が存在し、それぞれ問題点がある」と書いていますから、必ずしも、課題文のように、単に肯定的にとらえるのではなく、批判的な視点がほしいというのが、明らかに求められている感じです。

こういう出題のときに、「賛成するか、反対するか」というような二元論で、しかも「その理由を書く」ということでは、失敗する可能性が高いでしょう。

なぜなら、この問題は、「集団に属する」ということについて論じることが求められているわけで、そうだとすると、現在の社会状況で新たな社会のあり方、つまり、新たな集団への属しかたを論じ、その中で、どんな問題が生じて、どんなことが起こりうるかを考えないといけないからです。

こういう時に、「私は賛成です。なぜかというと、社会は変わっていて移民は増えるからです」とか、「私は反対です。なぜかというと、どんなに社会が変わっても、母国となる国家は存在し続けるからです」なんていう、当たり前の議論は、課題文の内容がまったくわかっていないのに等しい書きようになってしまいます。

あらためて、「賛成or反対」型の書き方指導の大きな問題点に行きあたりますね。

さて、文学部は、方向性は決まりながらも、やはり、批判的視点を求めているあたりで、「自由に」という感じが強い。特に最後が、ネットに踏み込んできますからね。国民国家の枠組みの中で、移民や難民問題はより大きくなり、保護主義的な政策が強くなり、ナショナリズムのうねりも感じる。その一方、ネットの枠組みではそうしたことをひょいと越えてみたり、その枠組みがくずれようとするネットだからこそ、ナショナリズムを強化するうねりを生み出していたりする。「命令と管理」から「調整と育成」へと書いていましたが、集団への帰属が分散型ネットワークでなくなるからこそ、人々は、集団への帰属をむしろ求める、ということもあるでしょう。ネットの世界こそ、むしろ、集団への帰属を求めるような場になっているのではないかと。

しかも、書くのは「国家」や「難民」でなく「集団」ですから、どの視点で切り取るかはかなり自由があります。マイノリティの問題でせめることもできるでしょう。

だからといって、課題文を無視してはいけないので、「連想ゲーム」的な小論文書くのもだめなんですけどね…。

ある程度、本質がわかっているひとにとっては、どう書くこともできるような問題でした。

 

2020年度入試総合政策学部~民主主義の後退と多文化主義

総合政策は、いつも多くの資料を読ませて、的確に指示しながら、自分の言葉でまとめさせるような出題をしてきます。それぞれの資料の考え方をまとめて、共通点や違いを考え、論点を整理する。ひとつずつの資料が、同じ言葉で語っているとはかぎらないので、ちゃんと自分の頭で、自分の言葉で整理しないと大変な事態になります。

ただし、問題のレイアウトは非常に親切で、狙いから、やることから、手順から、きちんと説明してくれています。このあたりは、総合政策ならではです。

だから、ある程度、物を考えていて、与えられた文章を読むだけの基礎知識を持っているなら、おそらく合格答案に近づいてしまうだろうと思います。

逆に、「しっかりと読んで理解する」とか「設問の指示にしたがって書く」というようなことをせずに、「適当に読んで、わかるキーワードから、連想ゲームのように発送して、自分が習ってきた形で書く」なんていうことをやる受験生には、とてつもなくきつい学部です。

さて、今回の問題ですが、「民主主義の後退」です。何について書くか、何を求めるかについても、私が書いて噛み砕くよりも、そもそも設問文にこれでもかっていうぐらい説明してくれています。でも、一応やります。しっかり問題自体を読んでくださいね。その上で、私が書いているぐらいにしてください。

  1. 最初は「民主主義の後退」が一過性でない可能性について論じた資料1、資料2を使います。資料1は、現在の世界の状況の説明、2016年17年ごろまでは、民主主義の後退は起こっていないこと、逆に言えば、それ以降は、内部矛盾が起こり、民主主義が後退しはじめていることが読めます。資料2は、格差をもたらすシステムの問題について論じています。この後退をもたらすのが「歪み」で、どうして、こうした歪みが起き、民主主義の後退が起きるのかを資料1から5までを使って説明します。資料3は日本の状況ですが、移民を受け入れない、なかなか入れないような政策を打っていること、そして、「多文化主義」という言葉があいまいであることを指摘した上で、ヨーロッパでは、居住国の法や社会規範が移民全員に適用されるポスト多文化主義を目指しているとしています。資料4、5はテクノロジーとネットの話。資料4は、マクルーハンを引っ張り出しています。ということは、おそらくテレビとかメディアとかを念頭においているんですけど、そういう中で国家を越えるような枠組み、「部族感情」って書いてありますけど、結局は国家を越える中で、アイデンティティクライシスが起きて、むしろ、何らかの集団に帰属する必要性を感じる。その過程で暴力が…というようなことですね。資料5は、ネットの分析で、さまざまな情報や多様性と出会うように見えて、自分の考えと似た人としか出会わないし、自分の求める情報だけが与えられるようになる、というような分析です。このあたりを読んで、「なぜ民主主義の後退」が起きているかを書くわけですね。となれば、資料2にあるような格差を生むシステム、資料3にあるような移民の流入によるアイデンティティクライシス、資料4にあるような国家の枠組みを必要としなくならからこその、アイデンティティクライシス、資料5にあるような、その上で多様性ではなく、むしろ自分の求める情報だけを求めるような中、資料1のような民主主義の後退が起きるというようなまとめ方になるでしょうか。
  2. 資料3を中心に、日本は多様性に開いた社会ではない、という上で、これから多様性が提起する問題に向き合いながら開かれた共同体を形作ることができるのか、ということを書きます。なんと200字。少なすぎます。つまり、自分の中では、論拠や論理構成を仕上げなければいけませんが、その上で、ガツンと自分の考えを書かなければいけません。当然「できるorできない」というのを書けばいいわけでなく「〇〇だから」「〇〇することで」「〇〇を重視して」などの部分がなければダメでしょう。これは大変。もちろん、図表の指示もありますが、あくまでもこれは「外国人労働者を受け入れざるを得ない」というあたり。どのぐらいの答案にどんな点数がつくのか、正直見当もつきませんが、自分なりの提案をせざるを得ないでしょう。
  3. 解答解説では、2とまとめられていますが、こっちの方がやりやすいかも。書くのは「民主主義がテクノロジーに合わせて設計されていない」ということが正しいかどうか。当然、これも「〇〇だから」というような部分が大事なんですが、指示がありまして、「ソーシャルメディアが公共空間のあり方をどのように変容させたか」を「資料5で論じている情報伝播の特性を踏まえて」、「公共空間とは何かを自分なりに定義して」論じるんですから、200字やるとなれば、書くことは、決まります。「公共空間を~とすると」「ソーシャルメディアは~というメディアなので」「~のように公共空間を変質させるので」「~という民主主義に合わせて設計されていない」という流れになるでしょう。あくまでも、私は、ですけど、「公共空間が変質する」となれば、ある種の「公共空間」に対応する民主主義に合わなくなります。もちろん、変質しても同じなんだ…という書き方もなくはないんですけどね。
  4. 最後の問題は、資料3以外は英語圏ベースなので、「各資料を日本に引き付けて読み直した場合」どう診断できますか、というのが問題。一見、「日本の民主主義の状況」について書けばいいわけだから、簡単に見えますが、そうでないのが、「各資料を日本に引き付けて読み直した場合」ですね。解答公表では、ここにすごくこだわっています。「日本がおかれている状況を相対化して観察できたかどうか」が「重要なポイント」であると書かれています。つまり、諸外国と比べてどうなのか、ということを各資料の状況から考える必要があるわけです。日本が諸外国よりどうなのかということ。図表のデータもありますしね。これも意外と厄介。結局、自由に書けるものは非常に少ないということがわかります。

というわけで、総合政策でした。長くなりましたけど、大事なのはしっかり資料を読み込んで理解して、で、論点を明らかにすること。その意味では、例年一貫していると思います。

 

2020年度入試環境情報学部~発想と主体性を求める出題傾向

SFCとしてみれば、総合政策と環境情報は「双子の学部」。どっちでも入ってしまえば、同じようなことができるし、入試問題も非常に似ている。

けれど、昨年の解答公表もそうでしたが、実際の入試問題を見ると、狙いがまったく違うことがよくわかります。

今回のテーマは、「人間性」。環境と情報というキーワードをもとに、人間、人というものをどうとらえるかということが求められています。問1では、4つの文章を、それぞれ、の「人間性」を環境と情報というキーワードを必ず使いながら、図示したり、記号を使ったりして、「一目でわかりやすく表現」することが求められます。

その上で、問2は、これから30年で起こりうる社会システムの変容に、私たちの人間性はどのように影響されるか、そして、その人間性を自覚した上で、あなたは未来社会においてどのようにふるまいますか、というもの。特にこの問いについては、「問1の4つの人間性を十分に理解したうえで」「ひとつ、または複数を選択して議論を深めても、あらたな人間性を自身の生活の中から見出して」議論を展開してもよい、となっています。

あくまでも「課題文を十分に理解した上で」とはつきますが、その上で発展させるというか、昨年は「気づき」を強調していましたが、アイディアとか気づきとかそういう膨らませ方が大事なのが環境情報です。今回は「信念を持って信じる道を突き進む力=主観・パッション」と書かれていますが、そういう力がより強調されるわけです。

もちろん「論理的に自分自身の行動を俯瞰し修正する力=客観・ロジック」、つまり「課題文を十分に理解した上で」という部分ですが、それが必要で、その両方の中で、「問題発見」と「課題解決」を行き来させる問題であるということですね。

以下、簡潔に4つの資料の人間性と環境、情報についてです。

1はチンパンジーから人間への変化、環境の変化、住む環境の選択が、人間のあり方、たとえば離乳の時期とか脳の大きさとかを決めた、というような話です。その人間の変化がまた新たな環境の変化を生み、それが、情報というか、共感力や道具の使用につながり、言葉の獲得につながっていき、また、それが…というような話です。

2は、アンドロイドに演劇をさせるという話。アンドロイド、ロボットに心があるか、人間性はあるか、という話にも近いですね。私たちはさまざまな人と関わりながら、文化、つまり環境に合わせて、人間を作っていくわけですね。ロボットにそうした経験を積ませること、それをデータ、情報として集めながら、ロボットとしての人間性を作ることができるかもしれません。でも、主眼はそちらよりは、ロボットをある環境の中で、ある行動をインプットすることで、私たちはそれを情報として受け取り、私多たちの環境の中で、意味づけ、そこに心、人間を読みとる、ということ。つまり、ロボットの行動を、ある環境の中での意味のある行動として、情報として読み取る、その動きこそが心、人間の働きだということです。ロボットに心があるように見える、私たちの心、人間としての動きをとらえるべきですね。

3は自分たちの身体が、様々な経験に支えられながら、一瞬のうちに成し遂げることに人間の心を見ています。人間の神経、つまり、情報の伝達が、無意識にそれ行うことに、人間性を見ているわけです。実際には、私たちの周りには、さまざまな違う環境があり、にも関わらず、過去の経験からその異なる環境下においても、同じような行動を情報の伝達によって可能にしているわけです。これをロボットにさせるとしたら…。環境の違いに対応する、ありとあらゆる情報のインプットが必要になるわけですね。

4、最後はモードのお話。私たちの欲望は、他者によってつくられるということ。つまり、私たちの人間性は実体のないイメージであって、それは他者の欲望に合わせてつくられる。つまり、環境によって左右され、それが情報として与えられる中で、できあがるわけです。環境は、常識のずれ、モードによってできあがります。それは広告に象徴されるような、実体よりもむしろイメージというような情報の消費によって、作られます。その意味において、私たちはからっぽだし、他者ももしかしたらからっぽで、そんな中、実体のない情報によってつくられた環境によって、セルフイメージを、また情報として他者に提供しようとするわけですね。

というようなことを踏まえて、問2にあたるわけです。それぞれの話のポイントが違うことで、因果関係というか、順番が変わってくるわけですね。問題自体の人間性を理解せよ、と言っています。1からすれば、人間の住む環境が変わってくれば、人間の身体的なありようや社会の仕組みが当然変わるでしょう。2のように、ロボットに心を見る動きを人間性と見るならば、AIの登場などで、社会の中にロボットが登場する中で、ロボットを人間として見るかどうかという論点が出て来るでしょう。3は、逆にロボットに、人間らしく振舞わせることは可能か、あるいはそのために何が必要か、ということにもなるでしょうし、未来社会において、ともすれば軽視されがちな、人間の身体の中にある、情報としての人間性の重要性を論じることになるでしょう。4は、人間自体の根幹が空虚であり、情報を消費するような状況で、人間としてどうあるべきか、という問題になることでしょう。

ありがちな予想としては、おそらく「AI」とか「ロボット」とか「ネット」とかそういうようなバーチャルな未来社会を予想して、その展開を書く…なんてことがありそうですが、まとめてみてわかると思うんですけど、特に2と3では、むしろ、その対極にある、受け手としての私たちの人間性、身体性が論じられているわけで、簡単に「AIと共存する時代」なんて一言で片づけると、「課題文わかってます?」みたいな感じになりそうです。むしろ、ポイントは、身体性の方なんじゃないかなって思います。そっちの方が書きやすい。

 

2020年度看護学部~問題としては国語。

看護学部は、加齢による認知機能の低下、物忘れなどが説明された文章です。

問題は、

「認知症の症状の程度や加齢にともなう認知機能の低下に、個人差がみられる理由」を「本文の内容をふまえて」説明すること。

次に、

「脳トレの点数が数点あがることは、日常生活の物忘れが一つなくなることを意味しない」のはなぜか、「効果の転移」の概念を用いて論じる

というものです。

二番目の方は、本文を読まないと、なんだか自分で応用させて考えるように見えますが、これも本文できちんと全部書かれています。

というわけで、ただの国語の問題です。

だって、両方とも理由説明の問題で、両方とも本文に答えがあるんだから。

解答公表は、本当の解答公表で、ちゃんと模範解答があります。それも、国語だから、ですね。

一応、昨年は自分の考えを書く問題なので、必ずしも国語だとはかぎらないのですが、昨年の模範解答も本文をなぞっていた程度ですので、結局、要求していることは本文をしっかり理解することであることがわかりますので、どちらの出題方針であったとしても、本文をちゃんとわかっているか確認するような問題である可能性が高いし、それで十分であるということですね。

 

ということで、慶応大学の今年の問題の分析でした。