大学入試に向けた古典分野の文学史は今日がとりあえずラスト。近世です。近世は、「前期・上方」「後期・江戸」で整理するのがポイントです。
前回、中世の文学史を行いましたが、今日は近世、江戸時代に入ります。近世の文学史は、大きく前期と後期にわかれますので、このどちらの時期の作品なのかを覚えることが大きなポイントになります。
近世文学史をおさえるポイント~印刷技術などで町人に普及した文字や演劇 早稲田政経では、前期か後期かが頻出ポイント!
近世の文学史を語る上で重要なのは、「印刷技術」です。文学史の試験には関係ありませんが、現代文のネタにはよくなりますね。
印刷技術によって、「知」が、庶民にまでまわるようになるのです。中世だと、庶民に文学はありません。エンターテイメントがぎりぎりです。
ところが、江戸時代に入ると、庶民でも字が読めるようになっていきます。そこに印刷技術が大きな力を発揮していることは間違いありません。
この結果、たくさんの作品が生まれ、また、庶民のレベルであっても文学的価値の高いものがたくさん生まれてくるわけです。
早稲田の政経の問題を分析しました。
早稲田政経のレベルで近世の文学史が出てくると、前期か後期かということが問題になります。
多くの場合、18世紀=1700年以降を後期、それ以前を前期とすることが多いと思います。参勤交代など、交通の拠点として、関西が中心だったものが、徐々に江戸にその中心をうつしていく、ということで理解すればいいでしょうか。
まずはその視点で分析しましょう。
前期 上方の文学
印刷技術によって、庶民も字が読めるようになり、本を読むようになります。それ以前に、そしてそれと同時に、「字」を庶民も目にするようになり、字があるから勉強できる、字が読めるから本が必要になる、という循環に入ります。当然、社会の安定も大きいでしょうね。元禄期(1600年代末)には、かなり庶民に本が回っています。
まず、ここは中世の流れの延長ですから、中世は復習しましょう。
さて、まず、物語では、仮名草子「御伽草紙」のような昔話が中世の流れの中で共有されていきます。さらに、浮世草子と呼ばれますが、井原西鶴が登場して、好色シリーズともいうべき風俗小説を書くんですが、名前だけ見ると、なんだかエロが入った文学価値の低いもののように見えます。でも実際は、たとえば敵討ちをむなしく感じる男、なぜ敵討ちをして自分の人生を捨てなければいけないかなどと考える男を描くとか、かなり庶民の生き方を描くものになっています。非常におもしろいですよ。
つづいて、演劇です。能・狂言は近世に入ると、浄瑠璃という形にも発展します。人形浄瑠璃、人形劇のようなものですね。近松門左衛門の曽根崎心中とか国性爺合戦、冥途の飛脚、女殺油地獄、心中天の網島などなど、現代になっても演劇でやり直されるような作品がたくさん書かれます。
一方でもうひとつ演劇は、すごいものが生まれます。歌舞伎です。もともと出雲の阿国という女性が、男装して踊るというものだったんですが、風紀が乱れると禁止され、若い男がその代わりになったりとかして、最終的には現代のように男しかできなくなります。禁じられるんですね。男が女装するのも風紀乱れそうですけど。これももともとは元禄歌舞伎で上方です。
続いて、詩歌。中世は歌から連歌になっていますが、これが近世になると、松永貞徳が中心となる「貞門」という俳諧連歌になっていきます。ここから出てくるのが松尾芭蕉。ここにいたるまでにはいろいろと流れがありますが、端折ってしまうと、芭蕉がこういう流れの中で出て来ます。蕉風、蕉門という流れになります。「おくのほそ道」でわかるように、発句を独立させるという手法が明治には俳句として確立されていくわけですね。
評論でいえば、儒学が幅をきかせます。新井白石「折たく柴の記」あたりをおさえましょう。
後期 江戸の文学
元禄期をこえると、徐々に江戸にも文化がうつってくる。それだけではなく、江戸ならではの文化として発展していくわけです。
まず、小説は、出版ともいえるシステムに入ってきて、黄表紙とか読本とか呼ばれる本が生まれてくるわけです。いろいろな作家が出て来て、たくさんの作品が流通します。
まずは、上田秋成。「雨月物語」ですが、要は怪談ですね。読本としては前期ですが、江戸時代としてみれば、江戸の文学で後期です。後期の前期ということです。1700年代に活躍をします。
後期の読本といえば、滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」になります。1800年代に入りますね。
滑稽本とか洒落本とか言われる世界もできてきて、これも聞いたことがあると思いますが、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」、式亭三馬の「浮世風呂」。1700年代後半です。
人情本とかだと、為永春水とかです。同じく1800年代に入るあたりですね。
中世から始まった浄瑠璃は、歌舞伎に負けていきます。したがって、後期江戸はどちらかというと歌舞伎優勢です。歌舞伎にもなりますが、浄瑠璃の演目では、「義経千本桜」とか「仮名手本忠臣蔵」とかが完成しますが、歌舞伎にもっていかれますね。歌舞伎の方では鶴屋南北が登場します。代表作は「東海道四谷怪談」。お岩さんですね。
俳句は、与謝蕪村と小林一茶「おらが春」が登場します。芭蕉の俳句が俗化してしまって、もとに戻そうという流れの中ですね。
遊びの文芸としては川柳とか狂歌とかがおこるのも後半、江戸です。
もうひとつ、後期=江戸で出てくるのが「国学」です。ますらをぶりを唱える賀茂真淵、もののあはれ、本居宣長「玉勝間」「源氏物語玉の小櫛」です。真淵が万葉集、宣長が源氏物語です。
国学というのは、当時、「学」といえば漢学なわけで、そんなばかなことがあるかと。「学」は日本の学問であり、向こうは「漢学」だろうと。だから、玉勝間とかテストに出たら、全部くんよみ。「漢文」は「からぶみ」。漢学は「からまねび」です。で、中国大っ嫌いで「をこ」=「ばか」を連発します。平安期のことばで書こうとがんばってます。
では、次は同じ事をジャンル別におさえましょう。
物語・小説
前期・上方
説話の流れ 仮名草子・「御伽草子」・井原西鶴
後期・江戸
読本・上田秋成「雨月物語」、滝沢馬琴「南総里見八犬伝」
滑稽本・十返舎一九「東海道中膝栗毛」式亭三馬「浮世風呂」
人情本・為永春水
俳句
前期・上方
松永貞徳→松尾芭蕉「おくのほそ道」「野ざらし紀行」「笈の小文」→向井去来「去来抄」服部土芳
後期・江戸
与謝蕪村・小林一茶「おらが春」
演劇
前期・上方
人形浄瑠璃・近松門左衛門「国姓爺合戦」「曽根崎心中」「冥途の飛脚」「心中天の網島」「女殺油地獄」
歌舞伎・出雲の阿国
後期・江戸
鶴屋南北「東海道四谷怪談」
評論~国学
前期・上方
儒学・新井白石「折たく柴の記」
後期・江戸
国学・賀茂真淵(ますらをぶり)本居宣長(もののあはれ)「玉勝間」「源氏物語玉の小櫛」
だんだん近代文学のように作者名と作品名がやまほどになりますが、流れを意識するのが大事です。前期は中世の流れをくんでいますので、そこからがんばりましょう。