中学入試や高校入試では漢字対策は必ず進めますが、大学入試ではどうするべきなのか、どういう対策が必要なのかまとめておきたいと思います。
大学受験での漢字対策について、質問を受けることがあります。いわゆるコスパみたいな話で、そもそもは、漢字対策をするべきなのかどうか。するべきだとしてどのようにするべきなのか、ということを考えてみたいと思います。
- 大学受験で、漢字対策はするべきなのかどうか?それはもちろん「する」!
- 大学受験の漢字対策の基本は、まずは評論の語彙をつけること=評論をたくさん読むことが一番。
- 大学受験の漢字対策は、過去問題から傾向をつかもう!
- 漢字そのものを効率的に覚えるためには、「部首」の意味と「音」記号の理解
大学受験で、漢字対策はするべきなのかどうか?それはもちろん「する」!
まずは、漢字の対策を時間をかけてするべきなのかどうか、という疑問についてです。大学入試そのものの判定に関わったことがないので、正確なことは書けませんが、まず、中学入試や高校入試の判定や分析の経験で言うと、漢字は間違いなく合否をわける部分であるということです。
合格者と不合格者の差がつく問題を分析するのですが、決定的に合格者不合格者をわけるのは、漢字や言葉の意味、接続詞などの知識的な問題であるということです。
漢字の場合、みんなが出来て、合格者と不合格者で差がつかないということもあるのですが、みんなが出来なくて差がつかないというケースは非常に少ないです。
本文の趣旨把握のような問題ではなく、まずはこうした知識問題で差がつくわけです。
たとえば、東大の現代文を考えてみたいと思います。
思っている以上に、記述の採点基準は厳しく、よくわからなかったけどとりあえず本文を写した、というような解答はおそらく0点に近いと思われます。中には、「東大の現代文なんて捨てだよ」という人もいるでしょうし、おそらくある程度正しい判断かもしれません。
そうなればなるほど、漢字の出来不出来で差がつくのは当たり前です。
高校で定期試験を採点していても、完全記述の難関大の問題をやったりすると平均点が30点ぐらいになることもあります。こうなればなるほど、漢字の出来が大きな差を生んできます。
中央大学のある学部の問題では、どうも漢字の一問が3点あるようです。4問ですから、12点。古文の配点が15点ちょっとらしいので、実はほとんど古文そのものと変わらない程度の配点があるんですね。
全部の大学がそうだとはいいませんが、おそらく思っている以上に、漢字の出来不出来は合否を決めています。
したがって、コスパとか言っている場合ではなく、とにかくやるしかない部分だと考えられます。
そもそも私立文系の合格最低点て、だいたい70%ぐらい。漢字がもし、一問2点だとすると、8点から10点ぐらいはあるわけで、さすがに全部間違うとかはないと思いますけど、全部間違うとすでに90%からしか始まらないわけですから、かなり苦しくなるのは自明です。
大学受験の漢字対策の基本は、まずは評論の語彙をつけること=評論をたくさん読むことが一番。
では、どのように大学受験の漢字対策をしていくべきでしょうか。
これ、実はいわゆる漢字の対策がいらないことが多いんですね。というのもたいていの場合、大学入試の漢字問題は、評論から出題されるからなんです。
まず、ここを認識したい。
中学入試や高校入試では、評論と同程度で小説、物語が出ていますし、漢字問題そのものを独立させている学校も多い。
つまり、漢字そのものの練習やあるいはさまざまな場面での語彙が要求されてしまうんですね。
こうなると、「漢字の練習」というそういうことが必要になってきます。小学校や中学校で、漢字の練習のテキストがあった大きな理由です。「漢字」というそのことが練習の必然性というか、必ずしなければいけないことになるわけです。
しかし、大学受験の場合、多くの大学では、漢字が独立することはありません。しかも、小説をそもそも出題する大学がほとんどありません。
つまり、現代文=評論であって、その中で、傍線部を作って、漢字問題を作るのがメジャー。だから、大学受験の漢字は、評論の中で問われる。つまり、その漢字は評論的な語彙をどれだけ知っているかということであって、難しい漢字を書けるかどうかではないと言ってもいいと思います。
たとえば、
「ゲンゼン」とかってどうですか?東大で出たんですけど、その時は「厳然」でした。記号論とかなら「現前」の可能性もありますよね。
漢字そのものが難しいわけではなく、言葉が浮かぶかどうか。
ある年は、
「ツウネン」「トウギョ」「ルフ」「ユウワ」「ハイジョ」。
カタカナでその言葉だけでは浮かばないかもしれないですね。文の中で読まないと浮かばない。
答えは「通念」「統御」「流布」「融和」「排除」です。
最初の3つは語彙としての問題ですね。漢字そのものを見れば、小学生でも書けるなんていうケースもあります。でも、小学生はその語彙を知らない。だから、まずは評論をしっかり読んで、読みがわからなかったり、意味がわからなかったりするような場所をしっかりとつぶすことが大事。辞書引くのが面倒なら、先生に聞いたり、友達に聞いたりするだけでもいいと思います。
大学受験の漢字対策は、過去問題から傾向をつかもう!
というわけで、大学受験の漢字対策は、まず評論の語彙を増やすこと、評論を読むことが大事だということになりますが、では、本当にその対策でいいのか、ということが考えられます。というわけで、一応分析をしましょう。
センター試験のように、書く可能性がない大学
まず、センター試験をはじめとして、ほぼ書く可能性がなく、与えられたカタカナ、熟語の字をひたすら思い浮かべるというような問題の場合、後で書きますが、部首であるとか、音記号であるとかの知識が有効になります。で、語彙はものすごく大事。
一方で、書く練習自体はいらなくなります。
こういう大学の場合は、センター試験対策の漢字問題集が有効です。たとえば、河合塾の「漢字マスター」とか使うなら、
基本的に書き取りをやる必要はありません。もちろん、センターだけで出来ている問題集ではないので、「やらない」といっても書かないだけの話で、問題を見て、解答を見る、ということはやった方がいいですね。
で、あとはセンターの練習問題を解けばいい。
これは、「漢字一問一答」でも、
「上級入試漢字」でも同じ。
セオリー通りで、評論を読みながら語彙に慣れていくべき大学
逆に言うと、評論から書き取りとか読みとかを出題する多くの大学は、こうした問題集で、書き取りや読み取りをするのは効果的です。
基本的に、評論から出題されるから、評論を数多く読んで語彙に慣れる。
こうした問題集は、「出る順」とか「出題頻度」とかにこだわっているので、評論的な語彙をベースに練習問題を作る。
だから、評論を読むことと、こうした問題集をやることで対策ができるといえます。
漢字検定のように、漢字そのものを対策する大学、小説から漢字が出てくる大学~明治学院大学
ところが、中には変わった大学がありまして、それは漢字の出題を別立てでやってくるような大学ですね。
自分が知っているところでは、まずは、明治学院大学ですね。
こういう大学は、間違いやすい、漢字そのものに焦点を当ててくるきらいがあります。
こうなってくると、実は漢字検定的なテキストの方が、合うような気がします。日常的な語彙というか、小説的な語彙というか、そういうところにも出題がよっていくわけです。
逆の言い方をすると、多くの大学は評論的な語彙に偏っていて、たいていの場合、音読み、熟語、漢語、名詞というあたりに出題が偏っているんですが、こういう大学になってくると、訓読みとか動詞、副詞などからも出題がされていくわけです。
数は少ないですけど、注意が必要な大学ですね。
明治から昭和初期の耳慣れない語彙が漢字として出てくる大学
そして、もうひとつ大事なのが、変わった文章を出すが故に、漢字そのものも変わった対策が必要になる大学ですね。
典型的なのが、早稲田の政経です。(2021年度からは出題傾向が大きく変わりますので、漢字も変わると思います。)明治から昭和初期の文章が出題されるが故に、そういう漢字であるとか語彙であるとかが出題されてしまうわけです。そもそも政経は、そういう一般常識的な教養的な出題が国語でも多いので、そういう文章を読む練習が必要になります。
そういう類いの文章が出るといえば、早稲田の文化構想、一橋大学、成蹊大学の全学部入試あたりが心当たりのあるところ。それらの大学で、そういう漢字が必ず問われているわけではありませんが、明治から昭和の文章を読む練習としては、これらの大学の文章が有効です。
あとは、最近はだいぶ落ち着いてきましたけど、明治の法学部あたりも、かなり法学部的な文章を読ませる傾向が強かった大学で、昔は結構漢文的な文章を平気で出して、漢文の知識とか、語彙とかを出題していました。今でも一応要項には「独立題として漢文は出題しない」となっています。これ、前に指摘したら、直してくれました。
結構前は、こういう難読語というか、明治時代の語彙まで含んでいるような問題集って結構あったんですけど、最近は各大学の出題に基づいて問題集が出来た結果、こういう部分の語彙が削られてきている傾向が強く、いい問題集がなかなか紹介できなくなってきてしまいました。
漢字そのものを効率的に覚えるためには、「部首」の意味と「音」記号の理解
さて、最後にここまで、私が教えてきた漢字の理解の方法です。
基本的には「部首」が「意味を表す」、残りが「音」を表すということです。
したがって、部首の意味を覚えることと、音を中心に部首を変えて漢字を整理することが有効なんです。これができちゃうと、特にセンターあたりではだいぶ楽になると思います。
簡単に書くと、まず、部首には意味があるから、部首の意味を覚えよう。そうすると、部首を変えるとどんな意味の漢字になるか想像できるし、部首間違いの確率が減っていく。
で、漢字には音を表す記号があることを知る。そうすると、音さえわかれば、似たような漢字を思い出して、部首を変えて見当をつけることが可能になっていく、というそういうことです。
形声文字をベースにした音記号の話はこちら。
漢字の書く練習を効果的にする話はこちら。
ぜひ、もう一度見てくださいね。
おすすめの漢字教材はこれ。
本当に漢字が苦手なら、こういうところからはじめると漢字の仕組みがわかります。もちろん、試験対策としては、先に紹介したような受験問題集がいいと思いますが、漢字がとにかくだめっていう人はこういうのを持っていると、「なるほど」という感じが強くなるかもしれません。漢字、放っておかないで、しっかりつめましょうね。