さて、古典の読解と文法の関係を説明し、今は文法を説明しはじめております。基本的には、
読解は文章を読むことで、読解力をつける
文法は模試で得点をとるためにつめていく
というのが私の立場です。
ですから、今日の話を読んで練習すると、文章は読めるようになりますし、読めるようになったぶんくらいは点があがります。
でも、受かるためには、文法と単語をつめて「答えを選ぶ・作る」練習が必要になりますので、そのことは忘れないでくださいね。
で、そうはいっても文法だろう、という感じではじめてはいるのですが、「読解はいつはじめるんですか?」なんていう声もあり、とりあえず概説だけしてしまおう、ということになりました。
読解は「手続き記憶」ですから、この項目を読んでも理解できるわけではなく、訓練が必要です。
だからこそ、早めにやらないと間に合わなくなってしまうのですね。
古文は著作権の問題がクリアできるので、ここでそのうち紹介しながらやっていきたいと思いますが、今日は、とにかく「読解のポイント」を示しておこうと思います。
- 苦手なら、「訳カンニングしてからの音読」
- 予習は「辞書や参考書を使わない」
- 古文の問題は「二度読む」~教科書なら一気に最後まで読む
- 「前注は本文要約~イメージできるまで本文は読まない」
- 「選択肢問題をうしろから追う」
- 「記述問題の傍線部をつないでストーリー化」
- 「オチ=ラストシーンは問題文の最初に読む」
苦手なら、「訳カンニングしてからの音読」
ここまでも学習方法のブログなどでたびたび書いてきましたが、読解は「量」です。言葉はシャワーのようにあびておぼえます。意味を説明されて覚えるのではなく、何度もも何度も出会ううちに、使うシチュエーションの共通性がわかり、把握されていくわけです。
もちろん、そんな暇はない人のために、単語集なんてものが出てくるわけですが、これも丸暗記していると痛い目にあいます。
たとえば、「恥づかし」なんて言葉はよく「立派だ」と書かれますが、「恥ずかしい」が「立派だ」なんてことはないですよ。「恥づかし」はあくまで「私が恥ずかしい」という気持ちです。
そのときに、
目の前にいる人が「恥ずかしい行動をして」それをみて「恥ずかしい」のか
目の前にいる人が「立派な行動をして」それをしない自分が「恥ずかしい」のか
という違いにすぎません。
そういうことも、ひたすら文章にあたっていくうちになんとなく理解できますが、あたる文章が少ないと、短絡的につないで理解できなくなります。
だから、この学習方法は、結構重要です。
予習は「辞書や参考書を使わない」
次に重要な発想は、「辞書や参考書をとりあえず使わない」ことです。
入試では、辞書を使えないですよね?
それに「辞書を使えばできる」だとすれば、それは単語の問題であって、読解の問題ではないということになります。
私は、「辞書を使わない」ことがルール。辞書を引くのは、単語を覚えたいとき。
だから、ここで重要なのは、
辞書を使わずに最後まで頑張って読むこと。多少わからないところがあったにしても、がんばって考えること。
これが読解力を育てる練習になります。
古文の問題は「二度読む」~教科書なら一気に最後まで読む
古文の文章は、二度読むが基本です。つまり、まず、最後までたどりつくこと。つまり、最初のうちはわからなくても、読んでいくうちにわかることだってあるのです。
そもそも古文の文章なんて、抜粋ですから、絶対に説明しておかなければいけない前提条件がカットされていることだってあるのです。それを注でおぎなってくれればいいんですが、途中ではっきりすると思うと、できるだけつけたくない、なんて考えるのが出題者なんですね。だから、まず最後まで読む。授業でも、「授業で進みそうなところまで」でなく、「最後まで」読んでしまいましょう。
一度目 わかるところをみつける=わからないところをとばす
わかるところだけを意識して読みます。
わからないところは考えない。余計なことをしない。
とにかくわからないところを飛ばして、わかるところを見つけます。
できれば、
主語、客語=誰がどうした、あたりを意識できればありがたい。
このあたりは、助詞と敬語の理解が重要になりますが、ここでの説明は省きます。
二度目 わからないところを考える
二回目はわからないところを考えます。
ひとつは、品詞分解の知識や単語の知識を使って、わからないところそのものを考えること。
もうひとつは、わかったところをもとに、直訳ではわからないところを意訳していく作業です。
「前注は本文要約~イメージできるまで本文は読まない」
古文の前注は、現代文と違い、その場面の要約であることが多いのです。これをしっかりイメージすればほぼ終わりです。
次の文章は~する場面である、などと書いてあれば、おいしい。そうでなくても結構な情報が前注に書かれています。
実際にやってみましょう。
左の文章は、『源氏物語』「松風」の巻において、明石上(御方)姫君(若君、父は源氏)、尼君(明石上の母)の三人が、入道(明石上の父、尼君の夫)一人を明石の地に残して、上京する日を描いているところである。これを読んで後の設問に答えよ。
ある問題のリード文、前注です。これを頭の中できちんと描いてどんな話か想像しましょう。
まず、出てくるのが、明石上、姫君、尼君です。漢字で名前があがると訳がわからないので、がんばって想像しましょう。
まず、明石上ですが、女であることはわかりますか?なぜなら、姫君の父は源氏、と書いてありますから、明石上はおくさん、お母さんでないといけませんよね。
そのおかあさんが、尼君。だから、姫君は尼君の孫。親子三代ですね。
この3人が上京します。「上京」ということは、京都以外が舞台で(まあ、明石ですけど)京都に行くわけですね。
ここに行けないのが、入道。明石上のお父さん、尼君のだんなさん。かわいがってきた娘、妻、そして孫娘が、自分から離れて京都に行くシーンなんだそうです。
さて。
どんな話ですか?
「別れの話」ですよね。家族の別れ、悲しいシーンですよね。「おとうさん、元気でね。」「おまえこそ。」「体に気を付けて」「行きたくない」「大丈夫だ、おれのことは…」なんて感じですよね?
殺人事件は起こらないし、愛人も出てこないし、突然病気で死ぬなんてのも厳しいですよね。ここまで注でわかるんです。
一応、問題文です。
秋のころほひなれば、もののあはれとり重ねたる心地して、その日とある暁に、秋風涼しくて虫の音(ね)もとりあへぬに、海の方を(注1)見出だしてゐたるに、入道、例の(注2)後(ご)夜(や)よりも深う起きて、鼻すすりうちして行ひいましたり。(a)いみじう(注3)言(こと)忌(いみ)すれど、誰(たれ)も誰もいと(甲)忍びがたし。若君は、いともいともうつくしげに(注4)夜光りけむ玉の心地して、袖より外には放ちきこえざりつるを、見(み)馴(な)れて(イ)まつはしたまへる心ざまなど、ゆゆしきまでかく人に違(たが)へる身をいまいましく(ロ)思ひながら、片(かた)時(とき)見たてまつらいでは(b)いかでか過ぐさむとすらむとつつみあへず。
(入道)「ゆくさきをはるかに祈るわかれ路に(1)たえぬは老のなみだなりけりいともゆゆしや」とて、(c)おしのごひ隠す。尼君、
もろともに都は出できこの(2)たびやひとり野中のみちにまどはん
とて泣きたまふさまいとことわりなり。ここら契りかはして積もりぬる年月のほどを(ハ)思へば、かう(注5)浮きたることを頼みて棄(す)てし世に帰るも、思へばはかなしや。御方、
「(3)いきてまたあひ見むことをいつとてかかぎりもしらぬ世をばたのまむ
(d)送りにだに」と切(せち)に(ニ)のたまへど、かたがたにつけて(乙)えさるまじきよしを(ホ)言ひつつ、さすがに道のほどもいとうしろめたなき気色なり。
たとえば、中盤で、入道、尼君、明石上が歌をよんでいますが、どんなことを詠んでいるかは、非常にかんたんに想像できるはずです。
「選択肢問題をうしろから追う」
センターや私大の選択形式の問題の場合、最後の問いは、
「本文の内容を照らし合わせてただしいものを選べ」
というような問題が出ますよね。ひっかけになるのは、似たような本文ででてくる内容を変えているから。逆に言えば、本文の内容に近いものがならんでいます。
たとえば、恋愛もので
正解が「ふられて悲しい」であるときに、
間違い選択肢が「カレーはうまい」「野球はおもしろい」「勉強はつらい」ではなく、
「ふられなかった」「次の人を探した」「ふってしまった」などなどがひっかけ選択肢になるわけで、そうすると、選択肢を見るだけで、話の内容はある程度想像できるわけです。
後ろからやった方がいいのは、前からやると、物語を間違って展開する可能性が出てくるから。少しずつずれてこじつけたりする。そうではなくて、オチからたどっていくと正しい道筋がみつかりやすいです。
さきほどの問題では、選択肢問題はふたつしかないのですが、たとえばこれはヒントになりませんか?
(D)(b)の部分の解釈として最も適当なもの一つを左記各項の中から選び、番号で答えよ。
1 なんとか過ごせるだろう
2 とても過ごすことはできない
3 とにかく過ごさなければならない
4 なんとしても過ごすべきだ
5 なんとなく過ごせそうにもない
最初の前注とともに、別れのつらさが想像できます。
(F) 線(d)の部分について。この部分の解釈は「 は無理だとしても、せめて都まで見送ってください」である。空欄にはどのような言葉が入るか。左記各項の中から最も適当なもの一つを選び、番号で答えよ。
1 出家してしまうこと
2 明石にとどまること
3 途中で引き返すこと
4 都で一緒に暮らすこと
5 別れを悲しむこと
選択肢どころか、問題文に「 は無理だとしても、せめて都まで見送ってください」とありますから、都まで見送ってほしい、という内容はくれていることになります。
「記述問題の傍線部をつないでストーリー化」
記述問題だとするとヒントがない、というのは間違いです。試験では同じところを何度も聞く必要がないですから、話が変わる、要点を聞いていくわけですね。
だとすれば、傍線部だけでもつなげば、話がわかるということにもつながります。
では、次の問題をみてください。
(H) 入道の姫君を鍾(しよう)愛(あい)している様子が、最も端的に表現されている部分(十五字以内)を本文中から探し出し、その初めの三字と終りの三字とを記せ。ただし、句読点は含まない。
いかにも面倒くさそうな問題ですが、考えてみると読解の大きなヒントです。
この作品には、「入道が孫娘をかわいがっているシーンがある」のです。
すごいヒントですよね。では実際にやってみましょう。
秋のころほひなれば、もののあはれとり重ねたる心地して、その日とある暁に、秋風涼しくて虫の音(ね)もとりあへぬに、海の方を(注1)見出だしてゐたるに、入道、例の(注2)後(ご)夜(や)よりも深う起きて、鼻すすりうちして行ひいましたり。(a)いみじう(注3)言(こと)忌(いみ)すれど、誰(たれ)も誰もいと(甲)忍びがたし。
入道がでてきていますが、入道の気持ちをおしはかれば、何をしているかどんな気持ちかなんとかわかりますか?
わからなくてもいいんです。入道が、どんな気持ちかで何かをしていて、そして、みんなが「忍びがたし」というシーンですから。
若君は、いともいともうつくしげに(注4)夜光りけむ玉の心地して、袖より外には放ちきこえざりつるを、見(み)馴(な)れて(イ)まつはしたまへる心ざまなど、ゆゆしきまでかく人に違(たが)へる身をいまいましく(ロ)思ひながら、片(かた)時(とき)見たてまつらいでは(b)いかでか過ぐさむとすらむとつつみあへず。
一番、混乱するところです。訳しにくい、といってもよい。とりあえずあきらめましょう。
(入道)「ゆくさきをはるかに祈るわかれ路に(1)たえぬは老のなみだなりけりいともゆゆしや」とて、(c)おしのごひ隠す。尼君、
もろともに都は出できこの(2)たびやひとり野中のみちにまどはん
とて泣きたまふさまいとことわりなり。ここら契りかはして積もりぬる年月のほどを(ハ)思へば、かう(注5)浮きたることを頼みて棄(す)てし世に帰るも、思へばはかなしや。御方、
「(3)いきてまたあひ見むことをいつとてかかぎりもしらぬ世をばたのまむ
入道、尼君、明石上が順番に歌を詠んでいきます。最初の前注推測をしていれば、ここはお互いの別れの言葉を言い合うシーン。
(d)送りにだに」と切(せち)に(ニ)のたまへど、かたがたにつけて(乙)えさるまじきよしを(ホ)言ひつつ、さすがに道のほどもいとうしろめたなき気色なり。
さっきの問題で、「都まで見送ってください」をもらいましたね。「だけど」ときますから、続きがどうなるかはよめますね。
戻りましょう。この中に、「入道が姫君をかわいくてかわいくて仕方のないシーンがある」ということでした。
あれ?さっき、あきらめたところしかなくないですか?言われてみれば「若君」と出てくるのはここだけみたいだし。
じゃあ、このシーンは、「入道が姫君をかわいがるシーンだ」と思って訳せばいいんですよね。なんだか急に何をいっているかわかりませんか?
「オチ=ラストシーンは問題文の最初に読む」
どうしても、ヒントが少ない場合は、まずラストシーンを読みましょう。
人が死んだり、別れたり、うまくいったり、いかなかったり、喜んだり、泣いたり…
ラストシーンには必ず大事な展開が待っています。
最後は〇〇する話
って知っていると、伏線も読めますよね。だから、これも必ずやりましょう。
こうして、はじめて問題を読む。しかも2回読む。
次回以降は、読解のテクニックに踏み込みます。