古文単語の解説シリーズです。
今日は「評価・素晴らしい」を表す単語群です。
恋愛ものでいうなら、特に男性を表す語群であり、また、女性をふくめて、どういう家の人物か、というところに関わるものですから、これも非常に多く登場する単語群です。
「評価」といいながら、どうしても「不評価」も入ってきます。
これは、
- 対となる概念も合わせた方が覚えやすいから
- そもそも紹介する単語が反対の意味も同時に合わせもつから
という二つによります。
青系統が、もともとの「評価」「素晴らしい」
赤系統が、「不評価」「ひどい」
という感じでおさえています。
ではいきましょう。
「立派な」漢字を表すグループ
「評価」のイメージは、「立派」で「素晴らしい」という感じなので、まずはこのイメージの単語を整理していきましょう。
めでたし
めでたし=「愛づ=愛でる」「甚だしい」で「愛で甚し」。
「~甚し」はよく使われる接尾語で、「たいへん」という感じ。「こちたし=言甚し」とか「らうたし=労甚し」とか。
めでる=というのは「愛情を注ぐ」感じですから、それが甚だしいということで、立派です。
はづかし
同じ「立派」といえば、「恥づかし」ですが、これを「立派」と置き換えると逆に間違えます。
「はづかし」はあくまでも「自分が恥ずかしい」こと。だから、「恥ずかしい」となることもあるわけです。これが古文ぽい、日本語らしい感じ。
自分の気持ちは「恥ずかしい」。そのためには、目の前の状況がふたつに分かれます。
- 相手が恥ずかしいことをしている。たとえば、裸で踊るとか、みっともないことをしている。相手が恥ずかしい=自分が恥ずかしい。この場合は、「恥ずかしい」
- 相手がすごいことをしている。たとえば、自分が真っ先に電車のあいてる席をみつけているのに、小学生がおばあさんに席を譲る。相手が自分に比べて素晴らしい=自分が恥ずかしい。この場合は、「立派・素晴らしい」
ちゃんと理解しないと間違いますよ。
はづかし=似ているのは「からはらいたし」。そのまま読んでしまえば、「片腹痛い」と腹をたたいて笑ってしまいますが、ダメ。「かたわらいたし」と読むので、「傍」「痛し」で、そばでみているとこちらまで、いたくなっちゃう感じで、はづかしにそっくりです。ポジティヴ=評価にはなりませんが。
同じように、相手が立派で、こっちが辛くなるというイメージでは「やさし」。「身もやせ細るような」という感じ。「優美」で美のところに入れていますが、場合によっては、不快系の言葉です。「はしたなし」もかなり似ていますね。
めざまし と まばゆし
このふたつはすごく似ています。両方とも「目がくらむような見ていられない雰囲気」というわけで、直訳は
「見ていられない」
ここからは恥ずかしいにすごく似ていて、
- 相手が素晴らしくて、目がさめるほど、目がくらむほどに「見ていられない」。これだと「素晴らしい」
- 相手がひどいことをしていて、「見ていららない」。これだと、「ひどい」という感じ。
ありがたし と さうなし
つづいて、「ありがたし」は「有り難し」ですから、「あることが難しい」くらい「めったにない」。ということは「素晴らしい」ですね。
これと同じ語義になると、
さうなし=そうなし、と読みますが、「双無し」と漢字をあてれば、「並ぶものがないくらい素晴らしい」「またとない」「ふたつとない」とそういう意味です。
になし=二無し、です。双無し、とほぼ同じ感じです。またとなく、この上なく、などととるといいでしょう。
厄介なのは、「さうなし」が「左右無し」となると、「左を見たり右を見たりすることがないくらい簡単に」というイメージ。
古文単語は、漢字がそもそも違うから、意味が違う、なんてこともあるんですね。
しる=なんていうのは、1知る2治める、ですが、それは、漢字が知ると治るだからですね。
あやし=1不思議だ=怪し、2身分が低い=賤し、ですよね。
「身分が高い」グループ
つづいて評価とくれば、「身分」に関わります。身分が高いセレブ感です。
あて と やんごとなし
あて=貴、です。つまり身分が高い感じ。
接尾語がつくと「あてはか」「あてやか」。「あてやかなり」というように形容動詞のようになりますね。
~やか=さわやか(爽やか)、すこやか(健やか)というように、「漢字+やか」で言葉になるわけです。「~はか」は同じで、「あさはか(浅はか)」とかですね。
やんごとなし=止む事無し、で、ずっと発展するみたいな感じ。君が代は千代に八千代に‥なんていうのに近いです。
対義語で、身分がひくいといえば、
あやし=賤し、です。怪し=不思議、ですが、字が変われば、身分が低い。
よく試験にでるのは、「やつす」です。高貴な人が、身分をわざと低く見せて気づかれないようにする感じですね。
かしこし
そのイメージに近いのが、「かしこし」で、この時の漢字は、「畏し」です。
畏怖。
かしこみ~かしみ~、とか、かしこまりました、とか、神様とか偉い人の前で、小さくなろうとする感じです。当然、立派のニュアンスを持っています。
もちろん、時代がすすむと「賢し」になることもありますが、平安期は「賢い」=「さかし」。
こざかしい、のイメージです。
必ずしもネガティブではなく、頭がいい感じになっています。
「さかしら」なんていう風に使うと、利口そうにふるまう感じです。
「好ましい」という感じ つきづきし・こころづく
最後に真ん中は、「好ましい」感じ。
付く=というのが、気持ちがそっちに行く感じなんです。
なので、
つきづきし=付き付きし、で「好ましい」
心づく=心が付く、で「好ましい」
反対は、
心づきなし、で、好ましくない、ですね。
むげなり=無下で下がない。要するに「ひどい」です。
「心づく」は原義からすれば、「気がつく」ですね。
たのむ=信頼
最後に「頼む」ですが、信頼を思い起こして、頼りになる人をイメージしましょう。