古文の紛らわしい語の識別を説明していくシリーズです。今回は完了の助動詞の「ぬ」を中心に考えます。「ぬ」、「ね」が中心となります。打消しの助動詞との見分けですからかなり初級編かもしれません。
入試で一番問われる文法題は、この「紛らわしい語の識別」と敬語、特に誰に対する敬意か、というあたりでしょう。
というわけで、ここまで2回説明してきました。
今日は、3回目でずいぶんレベルダウンする感じではありますが、助動詞の「ぬ」に関わる部分を解説しようと思います。
完了の助動詞「ぬ」をきちんと理解しているか?
まずは、完了の助動詞がよくわかっているかどうかです。
ポイント1 連用形に接続し、終止形が「~ぬ。」
第一に、連用形に接続すること。そして「~ぬ。」で終わること。
「風立ちぬ。」「風とともに去りぬ。」「夏は来ぬ。」
などなど。「~べし」などの終止形接続の助動詞と一緒になるときも「~ぬべし」のようになるのが、完了の助動詞です。
ポイント2 活用させられる。
活用は以下の通り。
花咲きぬ。
花咲きぬるとき。
花咲きぬれど、
ですね。
未然形になるのは、「む」などの未然形接続の助動詞につくときなので、「花咲きなむ」などです。打消しの「ず」は、「ず」の方が先につくので、「咲かざらむ」となってしまうので、「ぬ」のあとに「ず」をつけることはできません。
連用形は、連用形接続の助動詞「き」「けり」「たり」などですね。これ、前回もやりました。
「花咲きにき」「花咲きにけり」「花咲きにたり」などです。
命令形は、
「花咲きね。」これ、後でポイントになります。
ちなみに上から、
「花咲き・な・む」
「花咲き・に・き」
「花咲き・ぬ。」
「花咲き・ぬる・とき」
「花咲き・ぬれ・ど」
「花咲き・ね」
となりますから、「ナ変型」なんていいますけど、動詞のナ変とはさっきも書いたように「ず」につかなかったりしますから、この形、上に書いたものをそのままぶつぶつ唱えて口になじませるのがおススメです。
ポイント3 意味がわかる~「つ」との違い。
意味は完了ですから、原則「てしまう」。存続の「ている」と対にしておくといいでしょう。しかし、実際は、
「花咲きぬ。」を「花が咲いてしまう」と訳すのは変ですから「花が咲いた」となりますね。でも、だからといって「~た」で覚えだすと、過去の助動詞との区別がつかなくなり、挙句の果てに、過去完了形、さっき書いた「花咲きにき」と「咲きき」とか「咲きぬ」との区別がつかなくなりますから、まずは「~てしまう」とするのをおすすめします。
で、最後に同じ完了の助動詞「つ」との違いなんですが、
- ぬ~自然と起こること、自然現象に使われる。花咲きぬ。日暮れぬ。夜明けぬ。など…
- つ~意志的なことに使われる。「とく破りてむ」など。人であっても、自然と起こるなら「ぬ」を使う可能性がある。
これ、覚えておくのはありです。つまり、「投げぬ。」というような意志的な語が、完了になる可能性は低いわけで、そうなると、こうした語は「完了でない」という直観的な理解ができるかもしれないからです。
打消の助動詞と完了の助動詞の見分け
この項目はほとんど、打消しの助動詞「ず」との見分けに関わります。
打消しの助動詞「ず」は、
- 未然形接続=完了「ぬ」は連用形
- 花咲か・ず・ば、
- 花咲か・ず・、
- 花咲か・ず。
- 花咲か・ぬ・時
- 花咲か・ね・ど
- 花咲か・ざれ
ですね。
したがって、
- 第一に、接続で見分ける。つまり、上につく語の活用形で見分ける。
- 下二、上二、上一、下一など、未然・連用が同じでも、形が同じになる活用形が違うので、下につく語から活用形を理解して見分ける。
ということが可能です。
どこまでいっても原則的に、形で理解できるということですね。もちろん、たとえば、意味もなく「~咲かぬ。」というように、連体形で文が終わることはありうるので、100%形で決められるとは言い切れませんが、かなりの部分が形で決まる以上、非常に簡単な判別になります。
もう少し、つめていきましょう。
- 上につく語の未然形と連用形が違うとき、そこからどちらか判別できる。もちろん、下から判別しても構わない。
- 上につく語の未然形と連用形が同じとき、下の語から判別する。
こんな感じです。では、具体的に見ていきましょう。
「ぬ」~打消の助動詞と完了の助動詞の見分け
「ぬ」の見分けは打消しの「ず」の連体形と完了の助動詞「ぬ」の終止形の見分けです。したがって、以下のようになります。※つけたのが、相手のパターンです。違いを比べてください。
打消の助動詞だと判別するパターン
- 花咲かぬとき、
- 花咲かぬを、
- 花や(ぞ・なむ)咲かぬ。
- ※花咲かざるべし。
完了の助動詞だと判別するパターン
- 花咲きぬ。
- ※花咲きぬるとき、
- ※花咲きぬるを、
- ※花や咲きぬる。
- 花咲きぬべし。
- 花咲きぬらむ。
こんな感じ。
仮にこれが、「水流る」になるとすると、すべてが、「流れ~」となって、上では判別できなくなります。
というわけで、下につく語を覚えることが重要。
連体形になるとするなら、
- 「ほど」「こと」「とき」などの名詞が来る
- 「が」「は」「も」「を」「に」などの助詞が来る
- 「ぞ・なむ・や・か」がある、つまり係り結びになる
のどれかと考えればよいでしょう。
もうひとつ、覚えておいた方がいいのが、準体法。
準体法~「~連体形+、」は、「のが」「のを」と訳す
つまり、「連体形+、」のパターン。
「花咲く、見る」
とか
「花咲く、うつくし」
のような感じ。つまり、連体形で「、」になったら、まず「の」を補う。そして、さらに「を・が」を補う。
前は、「花が咲くのを見る」だし、後のは「花が咲くのが美しい」という感じ。
これが、絡む可能性があります。
水流れぬ、悲し
だったら、終止形で見る理由がありませんから、連体形と判断し、「水が流れないのが悲しい」ということになりますね。
もちろん、「、」の時が全部連体形になるわけではありませんが、終止形+「、」になるということは考えにくいですから、これも頭に入れておきましょう。
「ね」~打消の助動詞と完了の助動詞の見分け
次に「ね」ですね。打消しなら、已然形、完了なら命令形です。
打消しのパターン
- 花咲かねど(も)
- 花こそ咲かね。
- 花咲かねば、
- ※花咲かざれ。=命令形
完了のパターン
- ※花咲きぬれど
- ※花こそ咲きぬれ。
- ※花咲きぬれば、
- ※花咲きなば、(未然形+ば)
- 花咲きね。
命令形ということは言い切りで「。」ですから、見分けは非常に楽です。
だから、最重要ポイントは、
「花咲きぬ。」の命令形は「花咲きね。」である
ということを覚えることです。これがわかればだいぶ余裕。
それをふまえて間違えるとするなら、動詞を下二段にして、
「水こそ流れね。」
と
「水流れね。」
ですね。
要は「こそ」があるかないか。
最初はあるから、結びは已然形。つまり、打消しの助動詞。
後はないから、命令形。つまり、完了の助動詞になります。
ちなみに命令の訳は「~てしまえ」ですね。
未然形の「な」ってどんな時?
最後になりますが、ほぼ、判別の問題としては成立しませんが、完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」です。
- 花咲きなむ、咲きなまし…など未然形接続の語があとにくる。
- 花咲きなば、…未然形+ば、「~だったら」のパターン。「咲いてしまうなら」
間違うとすれば、
- な咲きそ。
- 咲くな。
- 死なば、
ぐらいでしょうか。「な」は禁止になるときと詠嘆になるときがありますから、それを見分ければ、あとはナ変動詞の理解で大丈夫でしょう。
つまり、これも、いわゆる確述用法の「咲きなむ。」「咲きなまし。」を口になじませ、「咲きなば」というのが訳せるイメージになれば問題ないと思います。
というわけで、今回は以上でした。