漢文の漢字シリーズの2回目は、読みで整理して同じ漢字を並べてみます。ほとんど同じと考えていい漢字と、漢字が変わると意味が変わる漢字があります。
前回の漢字にひきつづき、今回は、「読み」で見出しを立てて、漢字を羅列してみます。実際には句法に関わる部分と、同訓異字の部分に分かれるんですが、あまり気にせず、漢字をながめてもらって、読める確率をあげてみたいと思います。
共通テスト国語の解法~こうやって解いていく!古文、漢文のポイント - 国語の真似び(まねび) 受験と授業の国語の学習方法
今日、あげるものは、漢字では違うけれど、日本語の読みが同じになる、というものです。厳密にいってしまえば、漢字が違うということは意味のニュアンスが異なることになります。
その意味では日本語より、中国語の方が精密な使い分けがあるともいえそうです。もちろん、日本語は日本語で、微妙な接尾語を変えたりすることで、ニュアンスを変えるんですが…。
ただ、大学入試レベルではほとんどの場合、細かい意味の違いまでは問われません。なので、句法に関わる漢字と同訓異字にわけましたが、厳密には違いはないはずです。同訓異字の場合も、ほとんどのケースは、「ああ、こうやって読むんだ。これだけ漢字があるんだ」というぐらいで十分です。意味の違いを理解しないとまずいところは、説明しておきます。
あとは、こういうのは参考書に全部載っていると思いますし、漢字そのものがそう読むのが当たり前に感じるところは、有名なものでもここには載せずにおきますね。
句法に関わる漢字
まずは、句法に関わるものです。よく( )で載っているものをまとめます。
否定形
~ず 不・弗
なし 無・莫・勿・亡・毋
なかれ 勿・毋・無・莫
あらず 非・匪
まずはここまで、否定形をまとめました。「なし」と「なかれ」で違うのは「亡」ですね。
疑問・反語形
なんぞ 何・胡・奚・曷・寧
なにを 何・奚
いづれ 孰・何・奚・孰与
なんすれぞ 何為・胡為・奚為
何をベースに考える上の3つですが、厳密には漢字が違います。ただ、大体全部「何」の置き換えとみてしまってもあまり問題はありません。あまり時間をかけずにながめるぐらいでいいです。
いづくんぞ 安・悪・焉・寧・烏
いづくにか 安・何・悪・焉
「いづくんぞ」と「いづくにか」もよく見ると字が違います。寧には「いづくにか」がないんですね。でも、これもあまり気にせず全部まとめておいて大丈夫だと思います。そもそも、読みが変わると意味が大きく変わりますから、ここで見極めることはないでしょう。
や・か 疑問 乎・哉・也・邪・耶・与・歟・夫
(ん)や 反語 乎・哉・也・邪・耶・与・歟・夫
みてわかる通り、文末に当たるのは、疑問・反語まったく同じです。つまり、文末の漢字から疑問・反語の見分けはできないということです。当たり前です。疑問が反語になるんですからね。ただ、日本人は、反語だ!と思った瞬間「ん・んや」と読む。ということですね。
この中で詠嘆「かな」と読むものを探しましょう。
かな 詠嘆 乎・哉・也・ ・ ・与・歟・夫 矣
※詠嘆は上記の漢字2字の組み合わせがかなりある。
ですね。ほとんど重なりますので、これも同じにしてしまっても問題ないと思います。そこまでの知識を要求している試験は見たことないです。
いくばく 幾何・幾許・幾
いかん 何如(どうなっているのか)・何若
いかん 如何(どうしよう)・奈何・若何
だれ 誰・孰
このあたりはながめておけば大丈夫だと思います。如と若はここでも同じで入れ替え可能です。
限定形
ただ 唯・惟・徒・直・只・特・止・独・第・祇
漢字が違うと「ただ」のニュアンスが異なります。唯・惟は「それだけ」唯一、特は「とりわけ」特有、直は「ひたすら」徒は「いたずら」徒労など。でも、こんなのもわかってなくて大丈夫だと思います。
のみ 耳・爾・已・而已・也已・已矣・而已矣
まだまだ組み合わせがたくさんあります。1字・2字・3字で「のみ」になります。
仮定形
もし 如・若・仮・令・設・即・則・当・或・儻 向使・設使・設若・如使
たとひ 縦・縦令・仮令・仮設・仮使・仮如
こうしてみると、実は、この二つの漢字が似ていることに気がつきますね。ただ両方で読む漢字はありません。仮定形として使う漢字をイメージするといいでしょう。
「もし」に関しては、令・即・則・当など、まさかそうは読まないよね、という字が入っていますから注意が必要です。
受身と使役
らる 見・被・為・所
一文字ずつニュアンスが異なりますが、あまり気にしなくていいと思いますので、説明しません。ちなみに、byに当たる「於」は「于・乎」が置き換えられます。
をして~しむ 使・令・教・遣
これも同じようにニュアンスが異なります。これはわかりやすくて、使って、命令して、教えて、派遣して、という感じですが、この程度でさえ、試験で聞かれることはないでしょう。
再読文字
まさに~とす 将・且
なんぞ~ざる 蓋・盍
なほ~のごとし 猶・由
まさに~べし 当・応
最後の当・応は違うといえば違うのですが、ほぼ同じとみて大学受験レベルでは問題ないと思います。複雑にしないようにしてしまいましょう。
その他の形
こひねがふ 冀・庶幾・庶
より 自・従・由
これはfromの~より、です。
与はthanの「より」で意味が違います。
同訓異字
さて、ここから同訓異字です。本来、同訓異字は、「読みは同じだけれど、微妙に意味が違う」というところが大事なんですね。
でも、大学入試レベルでは、そこまで出ることはほとんどない。確かにやるとおもしろいんですけどね。
この漢文はまず、センターレベルから始まっていかに得点をとるか、という観点でやっていますので、違いはほとんど気にせず、あくまでも、「この読みには、これだけ漢字があるんだ…」という観点でみてください。
なので、漢字が当たり前に読めるレベルは、そもそも省略してしまっています。ご了承ください。
見出しは同訓異字ですが、ここでは、「読み」から「漢字」を探す、というテーマでまとめているということです。
すなはち
- 則 レバ則 ~すれば、そこで
- 即 すぐに
- 乃 そこで
- 輒 すぐに・そのたびごとに
- 便 すぐに・とりもなおさず
この「すなわち」は、まず、意味の違いをしっかり理解しましょう。特に1・2はできないとまずいですよ。
なんぢ 若・汝・女・爾・乃
同訓異字ではないですね、きっと。「なんぢ」のパターンです。
ひそかに 私・窃・間・陰・密・潜
意味は微妙に異なりますが、気にしないことにしましょう。
つひに 竟・終・遂・卒・訖
これも意味が違いますが、読めれば終わりにしましょう。
畢竟・終了・完遂・卒業
おへる 竟・終・卒・畢・了
ついに、とほとんど同じですね。だって意味が同じですから。畢竟と終了を覚えてしまえば、あとは卒業だけですね。
ともに 共・具・俱・与
俱は「両方とも」。共と与は「人とともに」という感じ。
まさに 応・正・適・方
応は再読文字で「まさに~べし」。正は「まさしく」
にぐ =逃げる 逃・亡・北
逃避・亡命・敗北というのがそれぞれの熟語。亡は姿を消す。北は負けて逃げる。
もとより 固・素・故
固有・平素・故習というのが、それぞれの熟語
ゆく 往・行・之・如・逝・征・適
最後の3つは多少、意味が異なります。
逝は逝去で、死ぬこと。
征は遠征という形で、戦争などで遠くに行くこと。
適は目的に向かっていくこと。適帰。
かつて 嘗・常・曽
ちかし 幾・庶・近・親
最初のふたつが「ほとんどそう」という感じ。
近は距離が近いこと。
親は仲が良いという近さ。
また 又・亦・還・復
これもひとつずつ意味が違うので解説。
又は、その上また。
亦は「モ亦」。「~も」という感じが入る。
還は還暦のイメージで繰り返される「また」
復の「また」は「二度」の「また」
まことに 苟・固・実・信・真・誠・良
実は確実。信は信念。真は真実・真贋。誠は誠意。
そもそも、「まこと」というのは本当ということですから、そのニュアンスの違いはあまり考えなくても大丈夫。
かえる 回・還・帰・反・復
回遊・還元・帰郷・反省・往復
基本的には「かえる」と読めさえすれば、理解できる部分だと思います。
したがふ 従・順・随
従事・順守・順法・随行
順の「したがう」は守る・則る、というイメージの「したがう」ですね。
しばらく 且・間・少
読めるものが少ないと思いますから、しっかり覚えましょう。
漢字で意味が異なる字~まずは読めるようにすることから
いふ 言・道、云・曰、謂
心で思ったことをそのまま口にするのが、言・道。
人の言葉を伝える、うつす感じが、云、曰。
謂、は人に向かっていう感じ。だから「謂ひて曰く」のように使われるわけですね。
入試のレベルでは意味の違いに踏み込むことはまずありません。読めればいいでしょう。まずは、「報道」の道。それから、「云」ですね。
おもふ 思・意・懐・憶・想・以・謂
一字ずつ本来意味が違います。しかし、あまり気にしなくていいと思うし、想像できる範囲です。意は、あれこれ考えること。懐は、心にこめる感じ。憶は、まさに記憶するし、想は、想像の通りイメージすること。
ここで大事なのは、以と謂ですね。「以為」とか「以謂」とかも「おもへらく」なんて読みますが、そもそもこの一字を「おもふ」と読むことは覚えておきましょう。
みる 見・観・察・視・診・看・瞰・瞥・覧
これも字で意味が違いますが、気にしなくていいし、漢字を見て熟語をイメージすれば、なんとなくわかります。
見るは、普通に見る。目に入るような感じです。それに対して、観だと、注意深くみるし、察だとよく調べる感じ。視になると、注意してみる、よく見る感じです。診は、病状をみることだし、看は字の通り、手をかざしてよくみること。瞰は俯瞰の通り、上から見下ろすことで、一瞥とある通り、瞥は、ちらっとみること。一覧となるように、覧は、一通りみることです。
いずれにせよ、これらの漢字を「みる」と読めれば大丈夫。
きく 聞・聴・可
見ると同じように、聞くは、自然と耳にする感じ。それに対して、聴くになると、耳を傾けてよくきく感じになります。可は「きく」と読みますが、「ききいれる」感じで、まさに「可」です。つまり、許可とか認可のように「きいてあげる」というのは「認め許す」という意味の「きく」ですね。
すくなし 少・寡
多少と多寡ですね。寡人は、徳のすくない人で、私、という意味です。衆寡みたいな感じに使うと、ただすくないですけど、寡婦といくと、夫をなくした人となるように、ひとりものというような意味になり、寡人のようになると、徳や権力がないという感じです。少は多少で、多の反対ですが、少長で、年少年長というような反対語にもなり、当然、読みは「わかし」です。
ふるし 古・旧・故
今の対になるのが「古」
新の対になるのが、「旧」と「故」です。テストでは圧倒的に「故」がでますね。故人は漢文では、ふるくからの友達、です。
なく 泣・哭・啼・涕・鳴
最初の方は全部、「泣く」のイメージで、「鳴く」だけ当然、動物の鳴き声ですね。
慟哭というように声をあげて泣く、涕は「なみだ」と読みますから、涙を流して泣くこと。啼が、声をあげて啼くんですが、動物とかにも使います。
おそる 恐・畏・惧・懼
現代語の「おそれる」ですね。畏怖は、かしこまるようなイメージですが、「おそれる」と読んでしまえば、他の字もふくめて大きな違いはないかもしれないですね。だからやはり読めればいいでしょう。
いたむ 痛・傷・惨・悼・隠・戚・悵
まず、「痛」が別格ですね。体とか心とか、いわゆる「痛む」感じです。
傷はご愁傷さま、という感じで、強く悲しむ感じになっていきます。
悲惨とあるように、惨になると、むごいことをあわれむ、というイメージに。
哀悼とあるように、悼になると、死を悼む、という使い方になります。
隠・戚・悵は、そんなに覚えなくてもいいですが、隠は、孟子とかで出てきますけど、「惻隠」というやつで、心からかわいそうに思うことです。ちょっと知っていた方がいい熟語ですね。
かふ・かはる 変・代・替・換・更・易・貿
これは、基本的に現代文の問題としても通じてしまうので、字は多いですが、その意味では難しくありません。
覚えるのは最後ですね。つなげると貿易と熟語になりますが、交換する漢字の「かふ」です。特に、「易」がテストに出やすいので、注意しておきましょう。