漢文句法もだいぶ進んでまいりました。1周目はほぼラストに入っております。今日は、比況、比較などの句法を一気に説明していきます。何かと何かを比べてみる句法ですね。
さあ、今日のポイントは、
ことわざや故事成語で理解すること
です。
本文を見たときに、故事成語にもどしてみたり、あるいは、故事成語の表現でそもそもの意味を理解してみることです。
まずは3つの故事成語、ことわざを理解しましょう。
百聞は一見に如かず
まずは
A不如B
の句法です。
AはBに及ばない
とか
AよりBするにこしたことはない
とか
いろいろあって、結局何がなんだか本番で混乱する、というのが定番です。
たとえば、
不如参考書。
とあった場合、「あれ、Aだっけ?Bだっけ?」みたいなことになるわけです。
なので、ここで思い出すのが、「百聞は一見に如かず」ですね。漢文で書いてみれば、
百聞不如一見。
になります。主語が百聞、動詞が不如、ですからね。
そうしたら、どっちが、いいか考えます、百回聞くことと、一回見ること。そうです。一回見ることが「いい方」ですよね?
ここまで来たら、一見か、百聞かどっちか考えればいいわけです。
不如参考書。
ですから、一見ですね。だから、「参考書はいい」というような訳にいけばいいわけです。
簡単。
鶏口牛後
「鶏口牛後」とは「大きな(優れた)集団の最後になるなら、小さい(劣った)集団の先頭にいた方がよい」というような言葉ですよね。
つまり「鶏口>牛後」ということ。これをふまえて、漢文は、
寧為鶏口、勿為牛後。
寧ろ鶏口と為るも、牛後と為る勿れ。
むしろけいこうとなるも、ぎゅうごとなるなかれ。
寧為(二)鶏口(一)、勿(レ)為(二)牛後(一)。
です。
まず、ポイントは、
「寧」の読み。「むしろ。いずくんぞ」などの読みを覚えましょう。
「勿」は禁止句形。「無」を命令形で禁止に読むこともありますね。
「勿来」は「なこそ」。漢文で読むと「来る勿れ」。和文でよむと「な来そ」で「来るな」です。
というわけで、漢字が読めれば難しくはない。
隗より始めよ
最後は「隗より始めよ」
隗さんの王様がいい軍師がほしいというわけですが、それを今いる軍師の隗に相談するんですね。そうすると、隗がこんな感じの話をします。
「昔、足の速い馬を欲する人がいた。この人はいい馬だと聞くと死んだ馬の骨でも高い値段で買い取った。(もちろん、生きてる馬がほしいんですよ。)そうすると、高く買い取ってもらえると思ってどんどんと馬が集まってきた。だから、まず、この隗からはじめなさい。隗ごときに高いお金を払えば、隗より優秀な軍師は自然と集まってきますよ」
賢いですよね。
さあ、この時の隗のセリフです。
「死馬且買之、況生者乎。」
死馬すら且つ之を買ふ、況や生ける者をや。
しばすらかつこれをかふ、いはんやいけるものをや。
死馬且買(レ)之、況生者乎。
死んだ馬でさえ、買うのだから、まして生きたものならなおさらだ。(高く買うだろう)
ですね。自分を死馬といえるところがすごい。
この例文は、話ごと覚えるのがいいですね。「いはんや~をや」と5回ぐらいつぶやいて、染み込ませれば問題ないでしょう。
「比較する~劣る方と優れる方」
というわけで、これが「比較する」ということです。
つまり、「これはダメ」「~より」と言っているところと、
「こっちがいいよ」と言っているところに分かれるわけですね。
そうなると、あとは、これらと今までやってきたことの組み合わせで、たくさんの形があるように見えているだけなのです。
「劣る方「~より」」
百聞は一見に如かず、の構文の場合、「~より」の部分は、実際にはありません。「優れる」だけがあるわけですね。
鶏口牛後なら「勿~」の部分。禁止されてますから。
「況や」の構文の場合、「~すら且つ」の部分がこれにあたります。「~でさえ」というのは劣る方。「小学生でさえできるんだから」とくれば、「大学受験をする君はなおさらできる」とくるわけで、これは「小学生が劣る方」です。
- 勿~
- すら且つ
さて、これに加えてほしいのが、「与」です。これは、前置詞的に使うと、
「与(二)其遊(一)」というような形で、
「其の遊ぶより」というように劣る方の表現になります。
ちなみにですが、「与」は重要漢字で、
- ~と with ですね。読むときもどります。 with teacher なら、先生・と でしょ?
- ともに ほぼ上と同じですが対象がないとこう読みます。
- ~より 今回のパターン
- か 文末にくると、疑問文で「か」
- かな 同じく文末
- ~ために 名詞とセットで、直後の動詞を修飾します。
- 動詞「あづかる・くみす・あたふ」など
というようにいろいろな読みがあるので、注意してください。
というわけで、
- 勿~
- ~より
のどちらかを選んでいるといえます。
で、
- ~すら且つ
も覚えておけば完璧。
ちなみに「且」も重要漢字で、
- ~すらかつ
- まさに~んとす 再読文字ですね。「将」と一緒。
- しばらく
の読みがあります。
「優れる方」
こんどは逆に優れる方。
不如~は、あとがいいこと。
鶏口牛後だとすると
「寧ろ」がこれにあたります。「寧ろ白米…」ときたら、白米がいいんでしょう。
ここまでをまとめると、
- 不如~
- 寧ろ~
のどちらを使って、ほめるわけですね。
他にほめられものはないでしょうか?
不如の「不」を変えるパターンが考えられますね。
まず、「無」とか「莫」とかにすれば、「~はなし」ですから、
参照です。)
莫如
で、
如くは莫し
意味は同じはず。
打消しにするなら、反語も打消しですから、
豈若~哉
で
あに~するにしかんや
でこれも同じ。
つまり、いい方は
- 不如
- 無如
- 豈若~哉
- 寧
から選べます。
組み合わせよう!
となると、
劣る方
- 勿~
- ~より
- ~すら且つ
優れる方
- 不如
- 無如
- 豈若~哉
- 寧
の組み合わせとなるわけです。
じゃあ、やってみましょう。
- 百聞不如一見 = 百聞は一見に如かず。
- 寧一見、勿百聞 =寧ろ一見するも、百聞する勿れ ちょっと言い過ぎですね。
- 与其百聞、寧一見 =其の百聞するより、寧ろ一見せんか
- 与其百聞、不如一見 =其の百聞するより、一見に如かず。
- 与其百聞、豈若一見哉 =其の百聞するより、豈に一見に若かんや
みたいな感じ。どう組み合わせてもいいわけですね。
「勿れ」と「如かず」は両方とも主軸が、それぞれ「劣る方」「優れる方」にあるので、同時に使うのはむずかしいですから、比較をあらわす「より」が使われるケースが多いわけです。
なんとなくわかりました?
「すら且つ」を使うとするなら、ラストを反語に変えることもできますね。
安=いづくんぞ
など(反語だったら、何や豈です。)を使ってしまえば、
「どうして~なのか、そんなことない」という構文に持ち込めます。
有名な例文は次のもの
臣死且不避、卮酒安足辞。
臣死すら且つ避けず、卮酒安くんぞ辞するに足らんや。
私は死さえ避けないのに、どうして酒を断ろうか、いや断らない。
要は、「死」と「卮酒」を比較しているわけですね。
「不避」に対して、「辞」をもってきて反語ですから「不辞」と同じ。
なので、「ましてなおさら」と同じような構文になるわけです。
「選択をする」
選択となると「いづれ」です。
疑問文でやったと思いますが、「何」「孰」がこの読みを持ちます。
で、ここではそれを使った表現で
孰与=いずれ(ぞ)
を覚えておけば大丈夫。これが読めればほぼ解決すると思います。
「最上級」
比較級はちょっと工夫すると最上級になってしまいます。
善莫大焉。
が有名な構文。
まず、わかる所でいうと、
「莫」は「なし」で下が主語、ですから、善は「善については」という感じの修飾にしないとだめですね。
主語は、そうなると、「大」ですので、これを名詞的に読んで「大なる」「はなし」という感じにもっていきます。
で、最後のやつですが、
「焉より」=「これより」と読みます。
焉も重要漢字で、
- 読まない=置き字 有名すぎて読まない漢字と覚えていません?
- いづくんぞ
- いづくにか
- これ(より)これ(に)
という残りの3つも出るんですが、最後のやつの句法パターンがこれでした。
善、これより大なるは莫し。
ですね。なので、最上級です。
というわけで、比較も終わりました。次は、再読文字になります。