古文の読解練習シリーズの2回目です。今回は和歌を中心として読解につなげることをかんがえています。
私の立場は、「単語と文法で得点をとる」「読解練習は文章を読むことによってはじめてできる」というものです。
だから、読解ができない生徒に、
「まずは、単語と文法から」なんていう指導はしません。
もちろん、基本的な文法はわかってもらわないといけないし、単語はどんどん覚えてもらわないといけないんですけど、それはそれとして、
「今すぐ読解をやりなさい。文法が終わってなくても」
という立場。
単語と文法ができても文章が読めるようになるわけではないし、読解は時間がかかる。
生徒は、読解やらないんですよね。言い訳のように「まずは文法」といって、模試でうちのめされ、また「まだ文法が不十分」とかいって、文法に居続ける。本当は読解をやっていないから、読解ができないんですよね。
というわけで、前回までのお話。
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実践を少し入ってみたのが、前回ですね。
というわけで、今回は和歌を使った読解、あるいは文章中の和歌の解釈方法についてまとめます。
和歌は難しい?和歌の修辞(要はおしゃれさを競う言葉あそび=たとえ)について、簡単に学習方法を説明。
歌はとにかく嫌われます。なんだかよくわからないからです。
どうして、よくわからないのか?
気持ちを伝えるだけでは、なんだか物足りないから、おしゃれに言葉を着飾りたいのです。
「わたしのこと好き?」「好きだよ。」「どのくらい好き?」
こういうこと聞かれて、おしゃれに答えて「素敵!私も好き」っていうのが平安時代なんです。
気の利いたことが言えないと。
ところが、武士の時代、偏差値がさがってくると、このやりとりが、
「おれ、君の作ったお味噌汁が毎日飲みたいんだ。」(プロポーズ)
「無理無理。毎日は。たまにはパンも食べたくなるし、疲れるし。女がお味噌汁作るって女性差別じゃない?」みたいな返事になってしまう。
「おれ、君と同じ風景をいつでもみていたいんだ」(プロポーズ)
「それは無理でしょう。私たまには一人になりたいし、一緒にいたって興味が違えば、違うものもることもあるよね」みたいに返された悲しくないですか?
歌がわからない、というあなたはそういう人間だということ。
たまにいますよね。「好きって言葉にしてくれないとわからない」みたいな人。
ストレートに言わないとわからない。わかりやすくしてほしい。
それでは悲しいですよ。
とはいえ、なぜ、そんなにわかりにくくなるかというと、やっぱりその言葉がもたらすイメージが共有できないからですよね?
スカイツリーだの、六本木ヒルズだの、マンハッタンだの、夜景だの、ダイヤモンドだの、インスタだの、スタバだの、抹茶フラペチーノだの、西野カナだの、君たちが知っている言葉なら、ついていける。
だけど、平安時代の常識で、平安時代のおしゃれ感もってこられてもわからない。
だからこそ、多少は勉強しておく必要があります。
和歌といえば、修辞。これはわかりやすく言えば、こうした言葉遊びのこと。もっとつめれば比喩。たとえ。これによって、おしゃれ感が決まるわけです。
なので、そんなに難しく考えずにすすみましょう。
枕詞 簡単だけど入試には出ない。知っておくだけ。
一番知っていると思うんですけど、意味がない上に、ただの決まりで覚えるだけ。大学受験では簡単すぎて出ません。
ぬばたまの「夜」
ひさかたの「光」「天」
たらちねの「母」
とかってやつです。強気でいうなら、覚えなくても大丈夫。出ないから。
掛詞 重要で頻出!わからないと訳せないし、意味もわからない。とにかく重要。ポイントは覚えてしまうこと。
逆に死ぬほど出る。そして訳や理解にも関わる。頻度も多い。
とにかく最重要がこの掛詞。これはわからないと大変です。意味がふたつにわかれていくんですね。ひとつの歌=文がふたつの歌、文になるといったらわかりますかね?
大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天橋立
有名な百人一首の歌ですね。
いく野=生野(地名)・行く野
ふみ=踏み・文
です。
だから、訳は、
大江山を越えて生野を越えて行く野の道はとても遠いので、まだその地を踏んだこともないし、文を見たこともありません。
ということになります。
さて、これをどうするか、ですが、覚えればいい。
覚えるというのは、リストを探す、ということです。たとえば、ネットで検索すると、
とか、
なんていうのがヒットしました。
そもそも皆さんの持っている参考書、たとえば、学校で配っている便覧的なやつとか、自分で買った古典の参考書なんかにも載ってるはず。
覚える、といっていますが、正確にいえば、眺める、読む、程度で十分。日本語なんで、なんとなく見ておくだけで、漢字のイメージがわくはずです。
苦手だというなら、眺めるぐらいはするといいですね。
縁語 難しくて説明しにくい。たまに入試に出るけど、ある程度のラインまでで妥協しよう。
さて、次は縁語です。こいつはMARCH以上で出なくはないけど、勇気をもっていうなら無視。どんなものかわかったら、本質的に理解しなくてもいい、ぐらいがちょうどいいです。私でも嫌。
基本的には関連のある言葉、よく連想ゲームだと説明されていますが、それほど単純ではないです。
縁語が難しいのは、主語ー述語とか明らかな修飾関係とかは、技巧でもなんでもなく、ただの説明ですから、縁語ではないということ。
これが難しい。
ただ経験上、掛詞とか序詞を使っていれば、そういう直接的な関係が切れてくるので、縁語とみる確率があがっていくような気がします。
まあ、受験ぐらいなら真剣に理解しなくてもいいと思います。
序詞 入試には出ないけど、実は読解に一番関わる。序詞はダジャレ=大事でない部分。
で、今日の一番のポイントはここ。掛詞が重要なのは当たり前。で、掛詞は覚えればいい。
もうひとつが序詞です。掛詞をダジャレと説明していることがありますが、掛詞はダジャレではないです。なぜなら、両方の意味が重要で、意味がないところがないからです。
本当のダジャレは、序詞。意味がないんです。だからこそ、重要。ここを意味があるかのように考えるから、和歌がわからなくなる。「歌はメッセージ」ですから、意味のない飾りに惑わされるから、歌の意味がとれない。
これが「歌が難しい」と感じている一番の原因だと思います。
ちょっとやってみましょう。
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
「あしびきの」は枕詞。意味がないですね。
序詞は、「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」です。
「しだる」は「枝垂る」です。「しだれ桜」の「しだる」で、「枝」が「垂れる」様子。つまり、「山鳥の尾」が「枝垂れ桜みたいにしだっている」様子、それが「長い」ということです。これは「長い」を導きだすための形容ですね。
だから言いたいことは「この長い夜を一人で寝るのね」というこれだけ。それではつまらない。だから、「長い」の比喩を探したんです。
「私のことどれくらい好き?」って聞かれて、「〇〇くらい」って答えるみたいに。
同じパターンを同じく百人一首から。
みかきもり 衛士の焚く火の夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ
「物を思ふ」は恋心ですね。だから、「あなたを思うこの気持ち」は「夜は燃えて、昼はちょっとおさまる」。これが歌のメッセージ。
というわけで、ここまでが序詞。「夜燃えて、昼消えるもの」を考えてみたら、「みかきもり衛士の焚く火」が思いついた、っていう感じ。
次のパターン行きましょう。
かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを
みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋ひしかるらむ
この2首。
両方とも百人一首で遊ぶと、なぜか、上の句の終わりで、とるべき下の句が見えてくる不思議な歌ですね。
それも当たり前で、ダジャレだからです。
最初の方は、「さしも草」によって「さしも」がくる。言い換えれば、「さしも草」には意味がないんですね。
後の方は、「いつみがわ」で「いつみき」。だから「泉川」にはやっぱり意味がない。
意味がない部分を見抜いて、カットしないと、和歌が難しくなるんです。
序詞は大事じゃないけど、大事、ってわかりましたか?
句切れ 要は「。」がつくところ。「。」が途中に入らなければ「句切れなし」
区切れについては、大学入試で聞かれることはほとんど記憶にありません。
なぜなら区切れというのは「。」があるところというだけだからです。難しいと思っている人は、「なんか切れそうなところ」「さかいめ」ぐらいで理解していることがほとんど。
だから、「。」のところとわかれば難しくないです。
一応「。」がつくという説明を。
- 終止形。当たり前です。
- 係り結び。結びって「。」のことですね。
- 命令形。これも「。」です。
- 終助詞。「かな」「よ」「な」をはじめとして「ばや」「なむ」「てしがな」などもありますよね?
というところで切れる。
生徒がよく間違うのは「連体形」。連体形で上の句が終わると切れるような気がするようで。
でも次が名詞なら(名詞にかかるなら)区切れではないですよね?
歌枕・歌ことば
最後にこれについても触れます。特に「歌ことば」についてはネットでもほとんどヒットしませんでした。でも押さえた方がお得。
歌枕は地名ですね。こちらはまとめられているものも多いので目にするでしょう。
「逢坂山」「明石」「因幡」は掛詞でも当たり前の地名。「末の松山」と来れば、波でやっぱり愛情ですよね。「筑波」と来れば男女の恋。「須磨」だと塩とか景物もありますよね。「高砂」は松、「吉野」は桜、「竜田」は紅葉。
要するに、平安時代のおしゃれの常識。
渋谷、赤坂、青山、原宿…町にはイメージがありますよね?デートがどこかって大事でしょ?白金なのか歌舞伎町かで、登場人物変わるでしょ?
そういう平安時代の常識が歌枕です。
さあ、歌ことばです。
あまりまとめられていないので、まとめます。
- 浅茅生…浅茅が生えている荒れ果てた場所 あさぢう
- 蓬生…荒れて人がいなくなった蓬が生えているような邸 よもぎう
- 小萩…子ども
- 初草…若い女性
- 下草…誰にも気にされない自分
- 深草…男が来るのを待つ女性
- うづら…男が来るのを待つ女性
- かささぎ…恋の架け橋になること
- 露…涙、はかないもの、紅葉に導くもの。
- 玉の緒…命
- 松…待つ、永遠性、天皇家
- 越ゆる波…浮気、裏切り
本文中の和歌のポイントは「歌はメッセージ」「歌は直前の内容を詠む」…ということは?
だいぶ長くなってしまったので、この項目は次回に詳しくやります。
でも、多少やらないと、「この人は何が言いたいの?普通の面倒くさい和歌の授業じゃないか!」と言われてしまいそうなので、だいぶ長くなりましたが、進めます。
和歌のポイント
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歌はメッセージ…歌は極論を言えば、訳を作る必要はなく、何を伝えたいか「言いたいこと」だけがわかればよい。「好き~」とか「あいたい~」とか「薄情~」とかがわかればよい。
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歌は直前の内容を詠む…歌は、物語の内容を受けて、書かれるので、基本的に歌の直前の内容と同じことを詠んでいる。
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歌だけではないが、歌の直後の感情表現は、歌の内容とイコール…「泣く」「嘆く」などの心情語があった場合、それは台詞でもいえることですが、その台詞や歌は、その心情語とほぼ同じことを詠んでいる。
ということなんですが、それは次のことを導き出します。
歌のメッセージは、直前の内容である。
これ、すごく大事でおもしろいことだと思いません?
歌は物語の中で、単純に手紙の役割をしています。でも、現代文と違って、歌ではじめてわかるというほど、複雑な読み取りを必要としていません。
単純なんです。古文て。
だから、きちんと説明して、感情の言葉も使って、だから感情の単語を覚えてないと大変なんですよ。
というわけで、古文単語もがんばっております。
でも、だいたい恋の歌って、「不快・いやだ」って気持ちを読みますよね?振り向いてほしいから。
というわけで、古文単語も次は「不快・いやだ」に入ります。そして、次回で、歌の読み取りを例を使って説明してみたいと思います。練習しましょう!